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3、怠い! 百物語と生徒会の仕事

3、怠い! 百物語と生徒会の仕事



 昨日は、何か色々あったような気がするけど、多分そんな気がするだけで、至って平凡な普通の一日でした。うん、たぶんそうだった。そのはずだ。

 今日も何もない平凡な一日。

 高校生の一日なんて暇なもんですよ。

 期末テストも終わって、授業も一学期のおさらい的な、まあおまけみたいなやつばっかり。そんでもって、部活動にも入っていない私としては非常に開放感あふれた時期な訳です。うん、もうすぐ夏休み。楽しくのんびりいきたいものですね。

 というか、机がひんやりしてすごい気もちいい……

「こら、寝るな」

 丸めたノートで頭を叩かれました。校内暴力ですよ。事案です事案。

 でも許します。何故なら叩いてきた相手は、私が敬愛する生徒会長だからです。

「先輩〜、もうちょっと寝かせてくださいよ〜、あと五分」

「もうちょっとも何も、最初から寝るな。仕事中だ」

「え〜……」

 顔を上げます。そこにはいつも通り積まれた書類の山。

 そして、我らが生徒会長。長身で眼鏡が似合う、どっちかというとイケメンです。

 あと、若いのになんだか幸薄そう。

 さてさて、今は放課後。他の生徒は帰っているか部活に勤しんでいる時間。

「嗚呼、こんなに爽やかな風が吹き込む夕方なのに、何故に何故に、私たちはこうして仕事をしているのでせうか……」

 古文調で嘆いているのに、会長は普通に、

「それは、俺たちが生徒会役員だからだろう」

 と書類から顔を上げずに応えました。もうちょっと時代劇みたいな感じで言ってくれても良いのに……。でも、会長のそういったクールなところ好きです。

「しかし、生徒会は他に三人居るはずであろうが? 副会長と会計と会計監査は何処へ行ってしまったのでござるか!? 」

 私は時代劇調に貫きます。私の大和魂を会長にぶつける時は今だと、書類が私に囁いているのです。ああ、しかし、それなのにそれなのに会長ときたら、

「みんな部活、帰宅部なのは俺と君の二人だけ。Do you understand ? 」

 英語で返されました。悔しいので、

「イエス! アイ キャン フライ! 」

 元気よく応えます。自分でも意味不明です。

「いいから、働いてくれ、生徒会書記……」

 そう言うと、会長は大きく溜め息をついた。

「りょーかいしました! 」

 私は大きく敬礼をした。

 そうです、何と私は生徒会書記だったのです。よく、友達から「嘘ぉ!? 」と言われるけど、ちゃんと役員です。ちゃんと選挙で勝ちました。私の友達どもは正直失礼だと思う。


 さて、仕事しますか。

 明日の生徒会役員会議に向けての、書類整理が私の仕事だ。

 えーと、夏休みの行事申請書……のチェックは終わったから……、後は、終業式関連の企画書……も集まってる。なんだ、この書類の山あらかた片付いてるじゃないか、

「会長! 私、意外と仕事してました」

「なんだよ意外とって……」

「寝る前に、それなりに仕事片付けてたみたいです」

「まず、寝るな。それに、君の仕事はまだ、山ほどある」

 会長は、一呼吸おくと、

「まず、その机周りの掃除だ」

 びしり、と私を指差して言った。人を指差すもんじゃありませんよ、旦那ぁ。

「散らかっているから、残りの仕事量もわからないんだ」

 会長の言う事は非常にもっともでございます。

 ……しかし、

「怠いっすねえ」

 私の、大変心のこもった呟きに対する会長の返事は、身も凍るような鋭い視線でした。

 やめてください、なんだかぞくぞくします。

「へいへい、仕事します。仕事します」

 書類を種類事に分けて纏める。終わってるやつはクリップで留めて封筒に入れる。文房具はまとめて道具箱の中につっこむ。ついでに、道具箱と封筒を棚の上に無理矢理載せたら……、はい、奇麗になった!

 ふう、机の上すっきり! 私は掃除の天才かもしれない。

 と、見ると、まだ整理してない書類の山が一つだけ。

「会長、演劇部と放送部から、なんか、行事申請の企画書が来てます」

「ん? この時期、何かあったっけ? 」

「いえ、毎年やってる恒例行事じゃなくて、なんか今年から始めたいみたいですよ」

「へー、珍しい。こういうのってだいたい『例年に倣う』で終わってるもんなあ。そういう自主的な行動、俺は好きだね」

「そうですねえ、こういうのがあると生徒会自治! って感じがして、カッコいいですもんねえ」

「で、演劇部と放送部は何やりたいって? 」

「えーと、……『夏の納涼企画・百物語大会』だ、そうです」

「……百物語? 」

 百物語。それは古より伝わる怪談の作法です。

 暗い部屋に百本の蝋燭を点し、怖い話をする。

 怖い話を一つする度に、火を一つ消して行く。

 そして、百本めの蝋燭が消えたとき、何か怪しい事が起こると言う……。

「楽しそうですね」

「うん、まあ、そうだけど……」

「あ、何ですか会長? ひょっとして怖いんですか? 」

「いや、そんな事はないんだけど、なんていうかそれ、終わるのか? 」

 百物語は、終わらない物語でもあります。

 一晩に怪談百話なんて無理ですよ。一話語るのに五分だとしても、十話で五十分、つまり約一時間。それかける十ですからね。十時間ですよ。やってられるかってなもんです。そんな長時間怪談なんてやってたら、そりゃあ、頭もおかしくなって怪しいもんでも見ちゃいますよ。

 そんなもんです。そんな簡単に怪しいことが起こったら困りますしね。

 うん、昨日は何もなかった。何も。

「あ、でも、そこらへんはちゃんと考慮して企画してるみたいですよ。百物語っていうより、普通の怪談大会みたいですねえ」

「まさか、その分厚いの全部企画書か? 」

「ええ、そうみたいです」

「手間かかってんなあ……。いやしかし、これは……」

 会長は、一呼吸置くと、


「怠いな! 」


 と、きっぱり言い放ちました。


「えええええええええええええええ!? 会長!? 」

「何を驚いてるんだ、書記」

 きょとんとする会長。何をきょとんとしてるんですか、こっちはびっくりですよ。

「いえ、だって、いつも真面目一辺倒な会長がそんな事を言うなんて、ていうか、それは私の台詞ですよ!? いつもだった、私が言うべきなんですよ。怠い! って! 」

「そうだな、台詞を奪ってすまなかった。とりあえず、この企画書は見なかった事にして破棄しよう」

「ええええええええええええええええええええええええ!????? 」

 何を言いだすんですか、この会長は!

「さあ、それを早くシュレッダーにかけてくれ」

「え、ちょっと、会長? 何を言っているんですか会長!? 」

 生徒からの企画書を、会議にも通さないまま処分って、普通はあり得ないですよ。リコールされちゃいますよ。そんな横暴許されませんし、何より普段真面目な会長が言うのが、すっごい違和感。

「どうしたんだ? 君だって、夏休みに仕事が増えるのは嫌だろ? 」

 いや、そうですけど。でも、なんか、眼がマジだし!

 本当会長どうしちゃったの!? 

 そんな感じで、私がそうしていいか分らずに居ると、いきなり、


 コン、コン


 ドアをノックする音が響きました。

「入りますよー 」

 の声とともに、ドアからにゅっと顔を覗かせたのは、演劇部顧問の吉居先生の痩せた顔でした。

「どうしたんですか、先生? 」

 会長、今までの会話とかなかったみたいな普通の対応。変わり身早いなあ。

「いえいえ、何やら企画書を処分するとかどうとか話が聞こえたものでね、覗いてみたんですよ。まさか、うちの演劇部の生徒たちが丹誠込めて作った企画書を、処分するなんて事――」

 ありませんよねえ? 

 吉居先生は、会長にぐっと顔を寄せて、そう言いました。

 吉居先生は、痩せていて、背が高くて、物腰は柔らかで口調も丁寧なのにどこか凄みがあるというか、なんだが怖い喋り方をする。私は、正直苦手だ。

「いえ、そんな事はありませんよ」

 会長は、何事もなかったかのように笑顔で応える。

「今のは、ただ、ちょっと後輩をからかってただけですよ。こいつ、からかうと面白いんですよ? すぐ取り乱して」

「ふうん、まあ、いいでしょう? しかし、後輩をからかうなんて、生徒会長さんとしては感心しませんねえ」

「すみませんでした。ちょっと仕事量が多くてストレスが溜まっていたみたいです」

 そう言うと、会長は私の方を向いて、

「ごめんな」

 と、頭を下げた。

「ふむ、ちゃんと謝るのは良い事ですね。では、私はこれで失礼しますが、生徒の作った企画を没にするなら、ちゃんと会議を通さないといけませんよ。みんな、頑張ってそれをつくったんですから」

 ――いいですね?

 そう言って、吉居先生は生徒会室を出て行った。


「会長、冗談がすぎますよぉ」

 というか、会長には似合わない冗談過ぎてびっくりしました。

「ああ、すまんすまん。からかって悪かったな」

 それだけ、淡々と言うと、ひょいとこちらを見て、

「あ、それより君、そこ、危ないぞ? 」

「え? 」

 私が、返事をした刹那、まさに刹那の一瞬。

「うわあ」

 棚の上から、何やら道具がどさどさと雪崩れてきたのです。私の頭の上に。

 崩れさる、私の机周辺の秩序。

「もー、いったい何事! 」

「君が、色々積み上げるのがいけないんだろう」

 私の叫びは、会長の冷ややかな声に打ち消された。

「整理整頓は、大事だよ」

 会長のにやりとした笑い。

「いいえ、違いますよ! この棚が、この棚が私を貶めようとしているんです! 」

 そうです、棚が悪いんです。きっとこの棚は私の何かしらに嫉妬しているのです。そうに違いない。棚を平手でバーンと叩いてやります。めっちゃ、手が痛いです。

「おい、馬鹿なにやってんだ! 」

 何やら慌てる会長。

「え? 」

 何に慌てているんでしょうか? いいえ、私は気づいてしまったのです。

 嫉妬に狂った棚が、私の上に倒れて来ようとしているのを?

 うわあああああ、ごめんなさい。うわ、どうしよう、どうしたらいいのどすえ!?

 パニックです。


 ドンガラがっしゃん


 秩序、完全崩壊。

 ああ、私はどうなってしまったのでしょう?


 はい、無事でした。

 会長が、とっさに庇ってくれました。惚れてまうやろ。

 正確には、私と棚の間に入り込んで棚を抑えてくれたのです。

 尻餅を付く私と、それを冷ややかに見下ろす会長。

「危ないだろう、……バカ」

「すいません」

 素直に謝ります。

「まったく。さあ、他終わらせてさっさと帰ろう。その棚、直しけよ」

 くるりと踵を返し、席に戻って行く会長を私は尻餅を付いたまま眺めます。


 今、こうして見上げた会長の姿。


――あの尻の形。どこかで見覚えがあるような……?

 


 


美尻の会長登場

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