2、怪奇! メリーさんの電話とご奉仕
【2、怪奇! メリーさんの電話とご奉仕】
そんな素敵な事があったけれど、特に何もなく一日が終わろうとしていました。
彼は何も言わずにどこかへ早足で去ってしまったし、私も変な夢だったと思う事にした。
うん、だって、ねえ?
忘れるべき事ですよ。あれは。だって阿部寛犬vs魔法少女な青年ですよ。
うん、忘れた。
忘れようと思ったんだけども、どうしても気になったから、私は親友に電話してみる事にした。午前0時。普通電話していい時間じゃないけど、今日なら許される気がする。あと、携帯電話って便利だと思う。
「……もしもし、こんな時間に何? 」
電話向こうの、眠そうな親友の声。
「みっちゃんの、声が聞きたくって♡」
思いっきり、語尾にハートが付くような可愛い声で言ったのに我が親友から返ってきたのは、
「用無いなら切るぞタコ」
という冷たいお言葉でした。悲しい。
「まあ、それは冗談なんだけれども」
「冗談かよ! 私の美声に聞き惚れろよ」
「やべえ、みっちゃんの声すげえ素敵。鼻血出して、卒倒しそう」
「マジか!? そりゃあいけない。じゃあ切るわ」
「わー、ちょっと待ってよ〜。相談したい事があるんだよー」
「なんだよ、もう。眠いんだから早くしてよ」
みっちゃんは、言葉使いは悪いけど良いやつだ。
中学校の時の同級生で、高校で離ればなれになっちゃったけれど、こうしてよく電話で話す。
携帯電話って、本当に便利だ。
深夜の公園を散歩する。家で長電話してると親がうるさいからだ。
深夜の散歩が、私は好きだ。
親友の声を聞きながらっていうのが、更にいい。
「あのね、相談があるの」
「それはさっき聞いたよ、で、何? 」
「眠れないの」
「ホットミルク飲んで、布団に入って、眼をつぶって羊でも数えろ」
「違う、そうじゃなくて」
私は、自分の気持ちを正直に言った。
「なんだか、ドキドキして眠れないの」
「何それ、更年期障害? 生理ちゃんと来てる? 」
なんて事を言うのでしょう、この親友は。
「そうじゃなくてね、昼に変な犬に襲われたの」
阿部寛似のイケメンフェイスが脳裏に浮かぶ。私的には、ああいう濃い顔よりも、もうちょっと薄味な顔が好みだ。
「え、大丈夫? 怪我なかった? 」
とたんに、心配してくれる親友。うん、やっぱりみっちゃんは良い奴だ。
「ううん、怪我はなかったよ」
「そりゃあ、何より。で、何? その興奮が続いて眠れないわけ? そんなに怖かったの? 」
「うーん、怖かった……のとは、ちょっと違うと思う。危機的状況だったけど」
「ほう? 」
「あのね、危機的状況だった私をね、助けてくれた人がいたの」
「ほ、ほう? どんな人? 」
「うーん、なんと言うか……素敵な人」
「ほう! 」
みっちゃんの声に、何故か喜色が浮かびます。
あの格好を素敵と言わずに何と言えば良いのでしょう。なんというか、三千世界の何処に出しても恥ずかしい素敵ファッションですよ、あれは。
彼の姿を思い浮かべると、なんだか胸がドキドキしてきました。
「で、その彼の事を思い浮かべると眠れない……ってか? 」
何故だか嬉しそうな親友の問いかけに、私は素直に、
「うん」
と応えます。
「きゃー! 」
電話から響く、悲鳴。テンション高いなおい。
「ねえ、みっちゃん。この気持ちって何だと思う? 」
私の問いに、親友は、
「そりゃあ、あんた、恋だよ」
と、勢い込んで応えてくれました。
「恋? 」
そうでしょうか、これが恋なのでしょうかね。
うちの学校の生徒会の会長とかもイケメンな感じで、素敵だなあとずっと思っていたのだけれど、たしかにそれとは全く違うドキドキを感じている自分が居ます。
「これが、恋? 」
なんだか、素敵な響き。
電話をきって、立ち止まります。
街灯の光に、公園の遊具が照らされた、いつもの公園の風景。それも、なんだが瑞々しい輝きを放っているように見えますねえ。
お酒に酔った事はないけれど、あったとしたらこんな感じかしらね。
なんだか、そう言う気持ち。
と、そんな気分でいた時に、どこかから話し声が聞こえてきました。
「だから、なんでゴミ拾いなんかやってるんだ? しかもこんな深夜に」
「お前が言ったんだろう? 魔力を使うためには善い事をしなきゃならないって」
「確かに言ったがね、魔力の源は感謝気持ちみたいな、人々の正の心だ。人に好かれているという事実が、魔法少女の魔力の源だ」
「だから、魔法少女じゃないってば。……まあ、良いじゃないか。だから、こうして、感謝されるような善い事をしてるんじゃないか。見なよ、公園がすごい奇麗になった」
見れば、昼間見た。エプロンドレスに狐面姿の青年が、ゴミ袋とトングを持って、肩に乗せたくまのぬいぐるみと話して居ます。何と言うか、謎光景。
「はあ、お前は馬鹿だねえ」
ぬいぐるみから、酷い言葉が出ました。辛辣なくまですこと。
「なんだよ?」
「お前ね、俺は言っただろ? お前に向けられる人間の正の心が、魔力の源だと」
「ああ、だからこうして……」
「誰かに見られてなきゃ意味ないんだよ」
「あ」
魔法少女(?)さん、驚いてます。
「え、まじで」
「まじ」
「この格好で人前に出ろ、と? 」
「うむ、そう言う事になるな」
「マジかよ……」
「頑張れ、魔法少女! 魔法が使えない魔法少女なんて格好悪いぞ! 」
「だから、魔法少女じゃないってば……」
魔法少女な男性は、力なくその場に座り込みました。
……うん、見なかった事にしよう。
星がとっても綺麗ですこと。
そんな時、電話がバイブった。
みっちゃんかしら? そう言えばおやすみなさいを言っていないや。
着信の画面も見ないでそのまま通話ボタンを押す。
「はい、もしもし」
そう言えば、さっきいきなり電話を切っちゃった気がする。みっちゃん怒ってるだろうか。そんな事を考えていたのに、電話の向こうからしたのは全然知らない女の子の声だった。
「もしもし、私メリーさん、今――」
プチリ
私は電話を切った。うん、今の事も忘れよう♪
今日は、なんだか色んな事があった気がする。忘れたけれど。
さあ、帰って寝よう。なんだか熟睡できそうな気がする。
みっちゃんは苦労人