1、恐怖! 人面犬とすね毛
【1、恐怖! 人面犬とすね毛】
出会いは、ふとした瞬間。
帰り道の交差点で、声をかけてくれたね
「いっしょにかえろう」
〜♪
と、そんな普通な出会いでもあるはずなく。ZONEもWhiteberryも関係なく。
あの日見た花の名前はたぶんドクダミだった。そんな暑い日。
あの人と私の出会いは衝撃的だった。
何故なら私は、人面犬に襲われていた。
いやあ、あれはヤバかった。殺されるか犯されるかと思った。もしくは、なんかヤバい病気うつされるかと思った。マジであの人面犬は汚かった。ついでに臭かった。あと人面だから、口も人間なのがやばい。なんで、殺傷能力高そうな犬の牙より、真っ平らになってる人間の歯の方が噛まれた時の嫌悪感がでかいんだろうね。
いやー、あれは気持ち悪かった。
と、そんなヤバくて気持ち悪い状況だったのを助けてくれたのが彼だった。
素敵な出会いだったと思う。
もしこれが本当に、帰り道の交差点で「いっしょに帰ろう」だったり、食パンくわえながら曲がり角でどーんだったら、私は彼を好きにはならなかっただろう。と言うか、通報してたと思う。
想像してみてよ。
フリフリの少女服を着て、変なお面被った青年が、すっげえ爽やかに「一緒に帰ろう」って言ってくるの。しかも初対面。逃げるよ、そりゃ。通報するよ、もちろん。もしくは、股間に向かって飛び膝蹴りだよ、当然の如く。
でも、状況が状況だったからそんな事にはならなかった。彼の股間は守られ、前科者になる事もなかった。彼は人面犬に感謝しなきゃだね。
そう、私は、人面犬に襲われていたのだ。
学校からの帰り道。路地裏での事だった。
関係ないけど、私は路地裏が好きだ。なんか、狭くて湿ってる感じが好きだ。
なんか、ドキドキしてしまって、私は良く裏路地を探検している。狭い通路に置かれたゴミ箱を飛び越える時とか、頭の中でマリオの音楽が流れる。
デデッデッデデデーデ♪
もちろんジャンプしたらあの気の抜けたフオーン♪ 的な効果音がつく。楽しい。
その時は私は、もうクリアしちゃう感じでフオーン♪ とゴミ袋を飛び越えた時に、
デデッデデデデデーデーデ
私は死んだ。
いや、実際には死んでない。マリオでならと言う話だ。
私は、モンスターを踏み損なったのだ。
ゴミ箱を飛んだその先。そこになんと巨大なブルドックが居たのだ。
ボンレスハムみたいなまるまるとし体に、ちょんぼりちょろりな尻尾。そこに思いっきり、飛び蹴りをかましてしまった私だ。うん、やべえ。
ヤバいヤバいって思っていたら、そのブルドックが突然、
「なんだよう〜」
と、低い声でうなってこっちを睨みつけてきたから、更にヤバい。そう、そのブルドックは人面犬だったのです。本物のモンスターにエンカウントしちまったよこの野郎。
恐怖! 圧倒的恐怖だよ。
襲いかかってくる、人面犬。
顔はどこか、阿部寛に似ている。意外と美形だ。しかし、ブルドックにしては顔長っ!
思わず尻餅をつく私。声にならない悲鳴。
そんな時、いきなり現れたのが彼だった。
水色リボンのエプロンドレスに狐の面をつけた彼がビルの屋上から、颯爽と飛び降りてきて私と人面犬の間に着地した。
「君、大丈夫か? 」
私に問う狐面。
「さあ、早く逃げるんだ」
すごく爽やかな声で言われましても、私とても困る。
普通にスーツ姿の好青年が出てきてくれたら、ありがとうございますって言って何事もなかったかのようにこの場を去れましたのに。せめて、百歩譲って仮面ライダー的な、ヒーローっぽい姿をしていたらまだすんなりと事態をうけとめられましたのに。なんて格好をしているんですかあなた。ヤマンバや着ぐるみや全裸が日々闊歩する東京と違って、ここは地方のど田舎ですよ。そんな格好してる人普通居ませんよ。とにかく混乱してしまったんですの私。あと、やっぱりあの人面犬的な生き物は危険なのでしょうか? 私わからない。
というか、格好もそうなんだけれども、屋上から飛び降りてきた、と言うのがいけなかった。尻餅をついて居た私には、その、なんというかスカートの中が丸見えで、危機的状況だったからだろうか、何だかそれはとてもスローモーションに見えた。
うん、私は今パニクっている。
だいたい、尻餅をついているわけで、ずっとローアングルから彼を見上げるしかない私だ。ふわっとしたスカートの中がチラチラ覗いて来る。すね毛っていうか、もも毛が見える。やばい。
そんな私の恐慌をよそに、人面犬が喋りました。
なんでさっきから私は敬語なのでしょう?
とにかく喋りました。人面犬。その、もも毛の彼に向かって。
「魔法少女か……、何をしに来た」
もも毛は魔法少女らしいです。
人面犬の問いかけに、魔法少女彼も応えます。
「お前たちの、凶行を止めるためだ。そして、俺は魔法少女ではない」
どうやら、彼は魔法少女ではないらしいです。あたりまえです。
「ふん、口裂け女を倒したくらいでいい気になるな。お前などこの俺がこの場で、あの世に送ってやるわ」
悪役の常套句のような事を言う人面犬。
「さあ、どーんとこーい! 」
そう言って二足歩行で空手の構えをとる人面犬は、完璧に阿部寛の顔をしていました。何か知らないけど、怒られろ。
「さあ、どうした? 魔法少女、来ないならこちらから……」
そう、不敵に笑う人面犬の顔面に素晴らしい右ストレートが叩き込まれました。もちろん、彼のです。
まくれ上がるスカート、露わになるドロワーズ。
吹っ飛ぶ人面犬。崩れる顔。人面犬ていうか、もう崩面犬。
すべて一瞬の出来事でした。
「……魔法少女のくせに、魔法をつかわないだと……」
「だから、魔法少女じゃないってば」
「超常現象なら、どんと来い……だったのに……」
謎の台詞を残して、人面犬は地面に溶けるように消えてしまいました。
うん、なんと言うか、怒られろ。
安易なパロディは危険