3話
初めて予約掲載とかいうオサレな機能を使ってみた。
小出し、小出しの連続。だって3万しか書いてないもん♪(白目)
カルガード区総合病院は、この区全ての医療、薬剤処方などを一手に引き受ける、この区にあるたった一つの大型病院である。生活を支える病院が一つしかないだけあってその設備は、この世界では充実の一言だ。
ペースこそ遅いが、院内に絶え間なく運ばれてくる患者、負傷者。忙しく動き回る看護婦達。その内の一人が、一つの病室へと入っていく。
「目を覚まされたんですか?」
「はい! っていうか、そうじゃないと呼ばないですよー」
病室の中には少女が一人、そしてベッドに寝かされる一人の少年がいた。
その少女は肩に届かないくらいの、短い髪を嬉しそうに揺らしていた。今こそ笑顔で細められているものの目は大きく、瞳は髪と同じ明るい茶色。
しかし何よりも目を引くのは、腰の辺りから伸びている尻尾だろう。それもまた明るい茶色をしていて、きっちり手入れがされているのか、光を艶やかに反射して輝いていた。
服装は紺のブレザーのような上着と、動きやすそうな短いズボンを履いている。また腕には緑色の腕章が巻かれている。
「……ぅ」
ベッドに寝かされていた少年が、ゆっくりと体を起こす。
少年は見るからに背が低く、またその少し長めの髪型、童顔からも中性的な雰囲気がある。髪色は黒、黒瞳、といった所からただの純血種であろう。どこか感情の抜け落ちたような虚ろな目と無表情がやけに目についた。
それを見ていた看護士が慌てて、少年の体を止めた。
「ちょ、ちょっと、倒れていたんだから、もう少し寝て……」
「……いえ、いい。です。体。別に、痛くないし」
「そういう意味じゃなくて! ああもう、とにかく寝てて!」
看護士が少年を無理やりベッドに押し倒す。少年は一度瞬きをして、
「あ、う。びっくり、した」
と表情を変えず、全く驚いた素振りもないまま言った。
「ごめんね。でも、どこかに障害が残っているかもしれないし。とにかく、もう一回検査をするまではできる限り安静に、ね」
「……よく、分かりません、が。そう、言われるなら」
そう言って少年は、虚ろに目を開いたまま、ベッドに身を預けなおす。
それを見た看護士がふぅ、と一息ついた後、ゆっくりと話し始めた。
「少し混乱しているかもしれないから、取り敢えず君の状況を教えるね。ここは、カルガード区総合病院の中の病室の一つ。君は道に倒れていた所を、この子達に助けられたの。頭から血が出てたから、結構危なかったのよ」
そう言って、手で少女を指し示す。
一度驚いたように目を開きながら指で自分を指した少女は、恥ずかしそうにこめかみを掻いた。
「あはは、初めまして……って言うか、なんて言えばいいんだろ。初対面の倒れてる人と初めてかわす会話なんて、全く想像つかないから……」
むむー、としばらく唸って。
「とにかく自己紹介だけしとくよ。私はメルザ・フィクサリア。近くのカルガード士官学校に通ってる一年生。よろしくね」
へへ、と艶やかな尻尾を揺らして笑う。それを見たノドカは、未だ無表情のままに口を開く。
「ああ。うん。よろ、しく」
「……やりにくいね。取り敢えず、キミも自己紹介してよ」
「自己、紹介?」
「自己紹介? って、自己紹介は自己紹介さ。名前、どこに住んでいるか……ってそれはここ以外ありえないか。それじゃあ、住んでる家の目印になる所とか」
「………………」
少年は虚ろな目をしたままだ。したまま、黙っている。
「……なに。なんか私の顔についてる?」
「…………いや。そうじゃ、ない。ただ、分からない」
「分からないって、何が分からないのさ?」
「何も分からない」
「…………?」
「分からない」
一点張りだった。まるで話が進まない。少年もじっとメルザの方を見て言うものだから、メルザの方が逆に気まずくなるほどであった。
「もしかして、なんだけど」
と言ったのは、今まで黙っていた看護士だった。しばらくノドカの方を訝しげに見ていたが、何かを思いついたらしい。
「記憶喪失とか……」
「……記憶喪失? そんな話、そうそう有り得るものじゃないでしょ」
メルザが苦笑いを浮かべるも、対した看護婦は真剣だった。
「でもねえ……頭から血が出てた、っていうのが、どうにも引っかかるのよね。頭に大きな怪我があるから、頭に衝撃を受けたのかも。それなら、記憶がなくなってるっていうのも、合点がいくし……」
「で、でも……」
「じゃあこう聞こうよ。ねえねえ、なんでもいいからさ、覚えていることってある?」
ノドカは看護士からの質問を受けて、天井を見つめたまましばらく黙っていたが、その後絞り出すように言葉を発する。
「……の」
「の?」
「……のど、か。ノドカ」
「ノドカ……それが、君の名前?」
ノドカはこくりと頷く。看護士は言葉を続ける。
「ふむふむ、なるほど……ほかには?」
「……」
ぽやー。
「……」
「……」
ぽややー。
「それだけ?」
ノドカは頷く。看護士が少し苦笑いをして、目頭を揉んだ。
「ありゃまあ……ねえねえ、ノドカ君。こっち見て」
そう言って、看護士は目頭に手を当てたまま、眉間に皺を寄せ、しばらく力を込めるように震えていると、カッと力強く目を開いた。その目は先とは違い、まるで猫のように瞳が細長くなっている。
目をすがめて、少し鋭い目つきをして。
「ねえ、本当に何も覚えていないの?」
「……」
「何か一つ、名前以外にも……」
「……」
時間にして20秒程。看護士は見つめ続けていたが、しばらく見つめていた後、張り詰めていた息を吐き出した。そして大きくかぶりを振る。
「ダメ。ここまでなんにも視えないのは久しぶり……」
額に流れる汗を拭う看護士。
メルザが看護士の顔を見て感心したように言った。
「もしかして、読心術ですか?」
読心術、といっても、心の声とかを明確に聞き取る訳ではない。
相手の体の様子、言葉の調子などから心理状態を読み取り、それから現在の状況に合わせて心の中身を想像する、いわば技術の一つである。
しかしそれにも才能、または血族によって向き不向きがあり、この看護士は、特に見た目に特徴はないが、只の人間ではないようであった。
「うん。せめて、私の目が急に変わってびっくりしたりとか、少しくらい目が変わるかなーって思ってたんだけど……この子、まるで感情が動いたように見えない。瞳孔、目自体の動き、その他諸々全く変化なし。本当に何も動いていないわ。体も、多分感情も」
「……となると、本当に。ほんとのホントに、覚えていない」
「うん……黙っているだけにしても、証拠がないから」
ノドカを除く二人が、揃ってため息をついた。
「うーん、もしかして、この感じだとあれにやられたとかも……」
「でも感情がないとかなら分かるけど、記憶まで無くなるのは聞いたことないし」
「そっかあ……むむ」
行き詰まったように、メルザは眉間に皺を寄せて髪をかき上げた。その後その髪をしまったという目で見て、急いで手ぐしで寝かせた後、話を続ける。
「うーん、基本的に住人全ての個人情報はまとめられてるはずだから、区役所に行けば分かるだろうけど、今はそれどころじゃないしなあ」
「そうね……」
「それどころ、じゃない。って、何か、あったの?」
視線を動かさずノドカが問う。え、とメルザは言葉を詰まらせた。
「えっと、ああ、うん、ちょっとね。私が君を拾ったのも、それに向かう途中だったからなんだ」
「まあ今は気にしなくていいわよ。さっきまで倒れていたんだし」
「うん。だから君は寝てるだけでも」
「それに向かう、って、言った。それって、何?」
ずい、と体を起こし、ノドカはメルザに顔を寄せる。
う、としばらく言葉を詰まらせたメルザだったが、しばらく考え込んだ後、おずおず口を開いた。
「……え、えっとね。うーん……」
「戦争、かな」
今日はこの二つ。一日二話投稿のつもりでいます。
よっしゃ、22時に投稿されることを願おう!(現在21時38分
あれ、もしかして意味ないんじゃ……
※いつの間にか改稿されてたりします。不安なの(´・ω・`)