1話
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『魔法三番隊、前へ』
「「「「「了解!」」」」」
脳内に直接響く声に従い、十人規模の人影が動く。
それぞれの手には杖や、分厚い本があり、またそれらは魔法陣を周りにまとわせ、まばゆい光を放っている。またそれは赤、青、黄、様々な色をしていて、時間と共にその大きさを膨れ上がらせていった。
その向く先には、形様々、大きさ様々、しかし体色はすべからく黒をした、異形の化物が蠢いている。
この場にいる人間は全員、降って湧いたこの化物共に抵抗するために、必死に戦っているのだ。
手に持つ剣で断ち切り、槍で肉を貫き、魔法が炸裂する。ところどころで爆音が轟き、そのたびに化物共は身を削っていく。しかしそれでも唸るような咆哮を上げて、また甲高い奇声をあげて突き進んでくる。
群がる化物たちの中の一匹、8本の足を持った犬のような怪物が飛び出してきた。俗に『ケルベロス』と呼ばれるそれは、その足全てを使い生み出されるその爆発的なスピードが特徴である。
その速さは他の怪物達とは比類にならぬ程で、他の化物の相手をしていた剣士が反応しきれず、突破を許してしまった。
飛びかかる先には魔法を準備している男が一人いる。
「う、うわあっ!?」
集中が途切れ、空中に描かれた魔法陣は結果をあげることなく、儚い音を立て消失する。それはすなわち、その男の抵抗する手段が失われたことを示していた。一瞬の内に、その男の顔が強ばる。
「んっぐ、ぬぅぅううううう!!!」
そこに割って入った男が右手の盾でその攻撃を受ける。
無理にかばったせいで崩れた体勢を立て直し、ケルベロスの体を突き飛ばした後、男は追撃を仕掛けた。周りを警戒しながら足8本の内の1本を踏み砕き、怯んだ所で左手に持つ剣を頸に突き刺す。
その一撃を受けてケルベロスも地に倒れ伏した。ぴくり、一度体を震わせた後、その輪郭を崩し、影も形もなくなる。
息をつき、庇われた男は手を上げる。
「ありがとう!」
「礼はいらん、次だッ! 次次!!」
「あ、ああ!」
『魔法三番隊は後退だ。再詠唱までの時間稼ぎの為、槍三番隊は前へ』
「「「「了解ッ!!」」」」
「りょ、了解!」
周りの隊員たちの返事もあって、ようやく落ち着いた男は遅れて返事をした。
「あーくそっ、生き残ったら飯奢ってくださいよ先輩!」
所変わって、血気盛んに飛び込んでいく剣士の若者に叫びかける魔法士の、リーダー格の男。そして、後ろまで引いた魔法士の男が乾いた喉を潤しながら言う。
「俺だって戦ってるんだ、無茶言うな。むしろお前らが隊長の俺を労ってくれても構わないんだぞ!」
受けた言葉を返した後、軽く笑みさえ浮かべて魔法を展開していくのは、リーダー格の男。魔法陣は数を重ね、そのたびにその面積を増やしていく。大して集中している素振りも見せぬままやってのける余裕が、この男の優秀さを現していた。
そこへ。
「おい、来たぞ! 迎え撃て!」
男が剣で指し示す先は空中の一角であった。
空が黒い。それは雨雲に似ているが、だがそれは『ミュートリア』と呼ばれる怪物の一種の群れであった。先端に嘴に似た鋭い突起物が備わっており、空中から滑空して標的を貫く、いわば特攻型である。
それがあの数だ。この場の人間に嫌が応にも緊張が走った。
それぞれが魔法を放ち、弓を放ち、攻撃手段を持たない近接武器を持つ人間は退避する。戦場は一気に騒然となった。
「撃て! 撃て!! 奴らは脆い、当てさえすれば止められるんだッ!!」
それがミュートリアの弱点。
再確認するように誰かが吠える。それに呼応するように、周りからの攻撃はさらに激しくなる。
魔法の範囲に飛び込み、また矢に射抜かれ、次々ミュートリアは四散していく。しかし、それでもその物量の前に取りこぼしがいくつも出てしまった。
そのいくつかのミュートリアが向かう先には、先のベテランの魔法士の男が。自分に矛先が向けられたことを察して、顔が一気に恐怖に染め上げられる。なんとか、元々詠唱を行っていた魔法を発動するも、仕留めきれない。
その数5匹。絶望するには十分すぎる数字だった。
晴れた空から注ぐ陽光とは対称的な黒の嘴が、やけに鋭く、妖しく、輝きを放ったように、男には見えた。
「や、止めろ、くるなぁァッ――――」
男の悲鳴は途中で途切れた。
まず足を貫かれ、動きが止まった瞬間に胸に腹に腕に喉にミュートリアの嘴が突き立ち、一瞬にして男の体は穴だらけになった。それでもまだ鴉のように、他のミュートリアが続いて男の死体へと群がっていく。
そのうじゃうじゃとミュートリアがひしめく場所の延長線上で、
「――――」
剣士によって固く守られた魔法士が魔法陣を展開していた。
色は赤。炎魔法だ。まともに聞き取れないようなスピードで詠唱を連ね、同時に魔法陣が重なっていく。
「――――完了。照射開始」
ある程度まで広がった後、一気に収縮して、その中央から極太の火炎放射が放たれた。
ミュートリアが軒並み焼き焦がされる中、当然その射線上には先の男の死体がある。
しかし周りの人間は、それに気づかない。男が上げた悲鳴は途切れ、それも混乱から来る騒ぎでかき消されていたし、何よりただ他人に視線を向ける余裕がなかったからだ。
火炎放射を放った魔法士の男も、そこにミュートリアが集まっていたから放っただけであり、そこについさっきまで話していた男がいたことを知らなかった。
炎にあぶられ、群がるミュートリアが消し飛ぶ中、男の死体も焦がされていく。
これが戦場。
ベテランでも気を抜けば死ぬ。抜かなくても死ぬ。新兵ならばなおさらに。
そして誰も、その死を気に留めない。留める間もなく自分も死ぬ。その死体でさえも、弔われることなく、気づかれぬまま利用される。影も形も残らないことだってある。
ある意味全ての人間に平等な環境。
過酷、苛酷、残酷が過ぎるこの場所で、それでも人は躍り続ける。
その全ての瞳が向く先には、一つ大きなドームがあった。
頭痛いのでここで寝ますww
この化物なによ、といった説明は次回になると思います