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(53) 不滅の原理

 千代田は想い巡っていた。この世に生じたものは移ろいとともに消え去っていく。たとえそれが泰然自若たいぜんじじゃくとして動かない山や川などの自然であろうと、宇宙次元での長い時の流れの中では移ろい、消えては生まれるのだ…と。この不滅の原理は、物理学で[エネルギー保存の法則]というらしい…と千代田が知ったのはつい最近のことだった。アインシュタインというメジャーに知られた偉い学者先生が相対性理論とかで考えだした質量・エネルギー等価原理で、E=mC^2の数式であらわしたと書かれていた。千代田にとっては、そんな小難しい知識はどうでもよかった。第一、彼には物理学の知識など皆無だった。もっとシンプルに考えたかったのである。

 遠い親戚の法事があり、千代田は父親の代理で席についた。なんとも、居心地が悪く、借り物の猫のように末席で飲み食いし、話しかけられれば適当に応対して静かな聞く人になりきっていた。

「いやぁ~~、ああなるのかねぇ~。お骨あげのときは愕然がくぜんでしたよ」

「そうでしたか…。僕は何度か、そういう場にのぞんでますので…」

れりゃ、どうってことないんでしょうがね…」

「ええ、まあ…」

 知らない親戚の男のしゃくさかずきに受けながら、千代田は普通に応対していた。話す言葉とは裏腹に、この酢もろこは実に美味うまい…と思っていた。そしてふと、ある想いに至り、千代田のはしが止まった。

「どうかされましたか?」

 遠い親戚の男がたずねた。

「あっ! いや、べつに。ははは…」

 愛想笑いをして誤魔化ごまかし、千代田は箸を動かした。千代田が思ったのは、もろこは食べられて消える。消えるが、僕のエネルギーになる。じゃあ、人は? ということだった。幸い、遠い親戚の男は深追いせず、用を足しに席をはずした。千代田は、ひと安心して、苦手な日本酒をやめ、いつも晩酌ばんしゃくで飲むコップのビールを飲みした。遺体は骨だけだ…と、千代田は祭壇に安置された骨壺を遠目で見つめた。一瞬、祭壇の遺影が動いた。いや、動いた気がした。千代田は目頭めがしらこすった。気のせいか…と、また酢もろこをまみ、コップに瓶ビールをそそいだ。そうだ! とひらめき、胡坐あぐらいたひざをひとつ、ポン! と打った。

「えっ? どうかされました?」

 そのとき、遠い親戚の男がニヤけながら席へもどってきた。膝を打ったところを、どうも見られていたふしがあった。

「ああ、いや、なに…。急用を思いだしましてね。そろそろ、失礼を…」

 丁度、頃合いでもあり、千代田は席を立つとお辞儀して玄関へ向かった。家人の老女が急いで送りに出た。

「少し早いですが、急用がありまして…。この辺りで…。お疲れの出ませんように」

「ご丁重に…態々(わざわざ)、痛み入ります。本日は、どうも遠いところを有難うございました」

 家人の老女は決まり文句のように流暢りゅうちょうに言葉を流した。立て板に水だな…と千代田は思った。千代田の家は、そう遠くはなかった。

「いえいえ…」

 千代田は家をあとにし、歩きながら考えた。あっ! 消えた遺体は、たましいと分離するんだ…と。身体の魂の分離・・これが、すなわち死か…。千代田は不滅の原理を単純に理解した。


               THE END

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