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(47) 越える 

 また! …と里香は思った。ヘアサロンへ行ったまではよかったが、どうしても先を越されるのだ。今度こそは! と意気込んで出かけた今日も、やはり先客が二名いて、優雅にカット中であった。この前も見たおばさん世代の顔ぶれだ。決してこの客達が憎いということではないが、こういつも先を越されると里香の鬱憤うっぷんも相当程度、まり、心はよどんでいた。二人が、さっき食べた揚げパンに見えた。食らいついてやろうかしら…などと思え、余計に自分がみじめになった。

「これはこれは! 里香ちゃんじゃないか。随分、大きくなったな!」

 里香が腹立たしく舗道を歩いていると、突然、後ろから抜き去った中年男が声をかけた。興奮気味の里香は多少、冷静さを欠いていた。

「あの! どちらさま? 心当たり、ないんですけど…」

 怒り気味の声で、里香はつっけんどんに言い放った。

「俺だよ俺!」

 オレオレ詐欺じゃあるまいし、俺だよ、俺はないでしょ! と、また怒れた里香だが、それは言わず、心に留めた。

「そうか、そりゃ分かんないよな。あの頃は2才…いや、3才だったかな」

 そう言われて、里香はその中年男の顔をジッ! と見つめた。そういや、どこかで見た憶えのある顔だったが、どこで出会ったのか、名前も何も浮かばなかった。

「耕一だよ。母さんの弟の…」

「あっ、耕一おじさん?」

 外国で暮らす伯父おじがいる、は聞かされていた里香だったが、もの心ついてからは、一度の面識もなかった。その伯父に偶然、逢えたのだ。先ほどまでの怒りは消え、里香の心は俄かに和んだ。里香は怒りの峠を越えていた。

「これから、家へ行くところだったんだ。まあ、立ち話もなんだ。歩こう」

 そう耕一に言われて、里香は耕一に続いた。そのとき、さきほどヘアサロンにいた揚げパンが二つ、いや、おばさんが二人、里香と耕一を賑やかに話しながら抜き去った。里香は、また怒れてきた。

「どうした? 里香ちゃん」

「おじさん、あっち行きましょ!」

 道は左右に分かれていた。里香は右の近道を選んだ。

「んっ? ああ…」

 耕一は里香に従った。数分、歩くと、左右に分かれた道は一つになった。10mばかり後ろに揚げパンおばさんが二人、見えた。家はすぐそこだった。もう、追い越されることはない。腹立たしさも消えていた。里香は越えたのだ。

「おじさん、お腹、いてない?」

「ああ、そういや、まだ昼、食ってなかった」

 買い置いた揚げパンが二つ、冷蔵庫に残っていたことを里香は想い出して笑った。

「んっ? どうした?」

「いえ、別に…」

 揚げパンおばさんが二人、愛想笑いして里香の家の前を通過した。里香は大笑いしながら家へ入った。耕一はいぶかしげに里香を垣間かいま見た。その頃、里香の家の棚では、買い置かれた揚げパンが二つ、冷蔵庫で何やら話し合っていた。


                  THE END

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