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(45) 怪談定食

 影山は会社の出張で、とある街へ赴任していた。最初はひとり暮らしで何かと不自由していた影山だったが、ひと月もすると、ようやく街にもれた。梅雨が明け、暑気が出始めたある日、影山は街へ出て外食しようと歩きながら店を探していた。だが、なかなかいい店が見つからない。腹は減ってくるし、日は落ちて辺りも薄暗くなってきた。最初の目論見もくろみでは、すぐに店へ入り、適当に食べて社宅へ戻ろう…という予定だったのだが、すぐどころか、かなり時間はっていた。見つからないならコンビニ弁当でも買って…と影山が思ったときである。陰気な定食屋が路地伝いに一軒あるのが目に止まった。影山は一も二もなくその店に飛び込んだ。店内には幾つかのテーブルとカウンターがあり、影山はカウンターの椅子へ座った。

「いらっしゃいまし…」

 物腰の柔らかいあるじらしき老人が奥からスゥ~っと陰気に現れ、影山の座った席へ冷茶を運んできた。急に現れた老人に、影山はギクッ! と驚いたが、すぐ落ち着きを取り戻して品書きを見回した。その中に、妙な品書きがあるのを影山は気づいた。

<怪談定食 時価>

「? …あのう、怪談定食って、なんですか?」

「怪談定食でございますか? フフフ…これからの季節のもんでございますよ、お客さん。初見えなんでございますがね、よかったら、どうです?」

 主は陰気な顔で、影山をジロリとめるように見回して言った。

「どうです、って言われても、財布の都合がありますから…」

「ああ、なるほど。時価は、まずかったですかな。七百円がとこ、でいいがす」

「いや、それはいいんですがね。内容は?」

「しばらく、お待ちを…」

 そう陰気に言うや、主はスゥ~っと奥へ消えた。歩いていた? いや、スゥ~っと流れるように消えたぞ…と影山は少し不気味に思えた。それでも、気のせいだろう…と気を取り直したときである。店の灯りが点滅し始めた。そして、その光は白色光から次第に蒼白さを含んで暗くなっていった。

「お待ちどぉ~さまぁ~~」

 現れたのは手盆に氷を乗せた老人の幽霊だった。

「ギャア~~~!!!」

 影山は大声を上げ、店を走り出た。恐る恐る影山が振り返ると、その店はこわれかけた廃墟はいきょだった。

「ギャア~~~!!!」

 影山は、ふたたび大声を上げて走っていた。


                 完

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