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(44) まあいい…

 章二は見当たらない財布を探していた。 

━ 妙だな…。確か、ここへ入れたはずだが… ━

 ズボンの後ろポケットに入れたはずの財布が消えていた。最後に出し入れしたのはつい数十分前のことだから、消える訳がない! と、章二は確信して、もう一度、ズボンのポケットをまさぐった。しかし、やはりなかった。章二は黙って動きを停止した。

━ 待て待て! ここは落ちつくんだ。外で落とした訳がないんだから、必ずこの辺りにあるはずなんだ ━

 章二は目をつむり、最後に財布を出し入れしたその後の自分の動きを脳裡でさかのぼった。やはり、この辺り以外、思い当たるふしはない。章二は財布の中身が幾らあったか…と、次に思った。今日はスキ焼をする予定で五千円ばかりありゃ足りるだろう…と算段し、肉屋→八百屋→豆腐屋→…の順に回り、家へ戻ったのだ。そうそう、レシートがあったな…と、章二は左胸に入れていたレシートを取り出し携帯の電卓機能で計算した。すると、残金は六百八十円となった。今日は、いい肉を少し多めに買ったからそんなに残らなかったんだ…と思った。となれば、まあいい…という気持も芽生え始めた。おっつけ、そこら辺から出てくるだろう・・第一、外で落とした訳でないことは明白だった。というのも、数十分前に財布に入れておいたクレジットカードを出してネットで買物をしたからだ。番号を入力するために出したのだ。だから、確かに家のどこかに財布は潜んでいるのは確実だった。章二は夕飯準備を始めた。

 見当たらない財布はバーゲンで千円した。今どき、千円の財布などそう滅多にあるもんじゃない…と手に取って籠へ入れたのだ。ブランドものかどうかは別として一応、感触は本革だった。まあ合成皮でないことぐらいは章二にも分かった。少しの年の効というやつだ。レジで財布から千円札を出した。出した財布は数千円したものだが、破れてかなりくたびれていた。だから買い換えたのだった。

 スキ焼で一杯やり、ほどよく酔いが回ったのでテレビをつけ、ふと見ると、財布がテレビの上で笑っていた。章二は酔いのせいだと最初、思った。だが、財布は確かに笑っていた。不思議なことに目があり口があり、足まであって胡坐あぐらをかいていた。章二はテレビへそっと近づいた。

『ははは…夢でもまぼろしでもありません。私はあなたが千円で買われた財布です』

 財布が話す訳がない…と章二には刹那せつな、思えたから、自分は、酔ってるんだ…と思った。財布はまた話しだした。

『ちょっと、待って下さい! 私が言うことを聞いて下さい』

 章二はギクッ! として、手の財布を見た。

『私に入るのは千円までなんです』

「えっ?! なぜなんだっ!」

 章二は思わず語りかけていた。

『そりゃ、そうでしょ。だって私は千円であなたに買われたんですから』

「そんな馬鹿な。前の財布はそんなこと言わなかったぞ!」

 章二は、いつの間にか財布が話すという現実を認めていた。

『私は特別なんです』

 そんな…と思えたとき、章二は急に睡魔に襲われた。気づくと章二はテーブルに顔を伏せて眠っていた。慌てて身を起こすと、スキ焼はまだ食べる前だった。ほどよく煮えて、いい香りがしていた。記憶では食べ終えていたから、章二はおやっ? と首をひねった。なにげなくテレビの上を見た。財布が乗っていたテレビの上には千円札が一枚、置かれていた。章二は、ギクッ! と驚いたが、まあいい…と美味そうなスキ焼を食べ始めた。


                THE END

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