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(7) 価値[value]

 派手な衣装と高価なネックレスで身をまとい、厚化粧を塗りたくった老齢の貴婦人と、頭髪に似つかわしくないティアラをかざった老齢の貴婦人二人が、高級宝飾店の店内でガラスケースをのぞき込んでいた。

「ホホホ…これなんか、安くて手頃ざ~ますわ、奥さま」

 ティアラ貴婦人が厚化粧貴婦人にアドバイスした。

「あら! そうざま~すわね。高々、1億2千万…」

「それに、なさ~ましな」

「ええ、じゃあ…。あの~う! これね」

 厚化粧貴夫人はガラスケースを指さし、まるで召使いのように後ろに従って直立する若い女性店員に指示した。

「かしこまりました…」

「お支払いは、いつものようにね」

「はいっ! あの…お付けになられますか?」

「えっ? 今日はその気分じゃないの。包んでちょうだい」

「分かりました…」

 何度も通う常連と見え、話はなめらかに進んで、なんの違和感もなく10分後には二人は店の外を歩いていた。ティアラ貴婦人は買い求めた小袋をげ、自慢げだった。皆さん、見てちょうだい、とばかりにわざと振るその袋も、ただの紙袋ではなく、純金+ダイヤモンド装飾の袋である。これだけでも軽く数百万はすると思われた。老貴婦人二人が歩く前方には二名、後方にも二名の黒サングラスをした頑強なガードマン達が黒背広で貴婦人達を守っていた。まばらに通り過ぎる人々は、まるで有名人を見るかのように立ち止まり、二人に視線を向けた。

「お食事にしましょうか? いつものお店で・・」

 買物でテンション高めの厚化粧貴夫人がティアラ貴夫人に提案した。 

「ホホホ…左様でござ~ますわね」

 二人はしばらく歩き、馴染なじみの、とある高級料理店へと入った。店頭には会員制の看板がかけられていた。一般客は入れない店だった。決められたかのように四人のガードマンは店前で立ち止まり、一歩も動かずガードした。

 約1時間後、超A級の食事を終えた二人は満足げに店を出た。氷のように店前で立ち尽くしていたガードマン達は、まるで機械が再起動するかのように前後二名づつに分かれ、貴婦人達をとり囲んで歩きだした。やがて二人の老貴婦人達は、待たせた高級車に乗り込むと、街をあとにした。

 時は流れ、三年が経過したとき、世界の情勢は一変していた。人類は食糧不足の飢餓状態へと突入していたのである。すべてが文明という名のもと、食糧生産をかろんじ、飽食を続けた末の代償だいしょうともいえた。

 街はすさみ、人々は飢えに苦しんでいた。食べ物の物々交換が当たり前の世界に変化していた。街路には浮浪者の姿があふれていた。その中に、かつてのティアラ貴婦人、厚化粧貴婦人の姿もあった。だが、ボロ着を身につけたやつれた姿には、以前の輝きを見いだすことはできなかった。ただの老婆の姿がそこにはあった。当然、過去にいた4人の頑強なガードマン達の姿も消えていた。二人の老婆は露天でパンを買い求めていた。

「商売の邪魔だ! 食い物もってねえなら、さっさと立ち去りな、ばあさん!」

「まあ! なんざま~す!! ばあさん、ですって? 失礼な!!」

「だって、あんたら、ばあさんだろうが! ばあさんにばあさんっていって、なにがいけねえんだ!」

 すさんだ露天商の男に二人は言い返せず、沈黙する他はなかった。

「あの~、お願いですから、そこのロールバンを一袋、いえ、二個だけこの宝石と換えて下さ~まし。これ、1億2千万いたしますことよ」

「1億2千万だと!? 馬鹿いっちゃいけねえ! こんな宝石100個、200個積んだって、このパン1個の価値もありゃしねえよ。ほら、そこに落ちてる石ころとおんなじさ」

 二人は意気消沈し、トボトボと、その場を去ろうとした。

「待ちな。ほれ、これひとつ、くれてやるよ。俺も助けられたことがあるからな。さあ、早く行きな!」

 二人はパンを受け取ると涙を流しながら立ち去った。男の足元の石ころの横に、一つの宝石が転がっていた。


                  THE END

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