(42) 人材あります![1]
「ははは…私のところは何でも屋じゃありませんので…。はい! また、よろしくお願いします」
戸倉真一は携帯を切った。ここは、事務所を兼ねた戸倉の自宅のひと部屋である。[人材あります]と広告は出したが、自分以外は誰もいない個人経営なのだ。とても会社などと呼ぶのは、おこがましいし、店を出してます・・などとも言えない小営業だった。まあ、まだ起業して10日ばかりだから、それほど落ち込むことではないと戸倉は開き直っていた。そんなことで、他に人材はなく、戸倉がすべての人材だった。依頼の電話内容が戸倉に出来ることなら、「伺わせていただきます!」だし、出来なければ、「誠に残念でございますが、生憎その手の者が休んでおりまして…」などと断っていた。要は、気楽な稼業なのだ。とはいえ、休日、勤務時間、手間賃の価格表などはキッチリと決められているのだから恐れ入る。さらには名刺もきちんと作られていた。名刺には[人材屋]と、やや大きめの文字が1行目に印字されていて、中央右横に小文字で「人材派遣業、委託派遣専門官、修理全般・業務取扱主任者、庭園管理士…」などと肩書きがズラリと並び、中央に大文字で戸倉真一と印字されていた。そして左下隅に、小文字で住所と電話番号が小文字で印字されていたが、もちろん、店の人材屋は家の住所と同じであり、電話は携帯のみだった。必然的にFAXはない・・ということになる。こんな名刺を貰っても、怪しい…としか思いようがない代物だった。それでも世間は、さまざまだ。
「はい! それなら出来ますので、係の者が10時頃、伺わせていただきます、ありがとうございます。… … はい! 料金は1日まで修理費込みで2万を頂戴しております。追加料金は1日につき5千円でございます! … … はい! 即金払いでも、振り込みでも…ええ、2回の分割でも結構でございますよ。… … はい! では、よろしくお願いいたします」
戸倉は携帯を切った。




