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(35) ギブ&テーク

 世の中はすべてが持ちつ持たれつ…そう、ギブ&テークだ。牧山がそう思ったのには訳がある。

「これ…高いんじゃない?」

 牧山が通勤帰りに妻に頼まれていた八百屋へ寄ったときのことである。箆棒べらぼうに値上がりした値札250円の白菜を手にして、牧山は八百藤の主人、藤城に言った。

「ははは…そう言われるだろうと思いましたよ。でも牧山さん、昨今、異常気象で不作なんですよ。というか、豪雨続きにやられちゃったみたいです」

 牧山はそれ以上、藤城に言い返せなかった。朝の出がけにテレビがこのニュースを報じていたのを思い出したからだ。

「上手くいかないねぇ~。まあ、仕方ないか。これ、一つ包んでよ」

「へいっ、毎度!」

 藤城は新聞紙に上手い具合に白菜を包むと牧山に手渡した。

「この前の値でいいっすよ!」

「ということは160円?」

「はい、見切り価格で! 牧山さんとこは、いつも奥さんに買ってもらってますからね! 今夜は鍋ですか?」

「ええ、寒くなりましたからね。家内に頼まれたんですよ。…これで儲け、でるんですか?」

 牧山は硬貨を渡しながら、小声で言った。

「いやぁ~、さっぱりです。まあ、お客さんとはギブ&テークですよ。儲けるなら、初めからやってません。親父は一代、続けましたが…」

 藤城は店をたたまないでくれと近所の多くのお得意から頼まれ、会社を退職し、やむなく父親の死後も店を続けてきた経緯があった。そうして、いつの間にか20年が過ぎ、老いを感じる年になっていた。そろそろキツイから店をたたもうか…と藤城は妻の美代と相談していた矢先だった。

「消費税、来年から上がりますね」

「ははは…うちは小商売ですから、余り関係ないです」

「なるほど。国も、もう少し国民とギブ&テークしないと、関係損ないますよね」

「会社さんとはギブ&テークで上手くいってるようですがね」

「そうそう。国民と会社、国民と国、国と会社、需要と供給、すべてがギブ&テークですよ」

「私ら商売人には難しいことは分かりませんが、それはそう思います。買ってもらえないと、みんな腐りますしね。長く置いとけないから家で食べるか、仕入れを減らすしかありません」

「野菜はストックできませんよね。それに引き取り手もない」

「そういうことです。親父がよく言ってましたよ。消費期限だの賞味期限だの、せちがらいご時世になったなあ~って。まあ、八百屋は増しだがって、笑ってましたが。…少し風が出てきましたね」

 八百藤の店頭を冷たい木枯らしが吹き抜けた。

「あっ! つい長居しました。早く帰らないと家内にしかられます。じゃあ、また…」

 牧山は新聞紙に包まれた白菜を大事そうにかかえ、家路を急いだ。

「毎度!!」

 後ろから藤城の声がした。確かにすべてがギブ&テークだ…と牧山は思った。そのとき、木枯らしが突然舞い、ヒュルル…(そうだ)と言った。牧山は辺りを見回したが、誰もいなかった。気のせいか…と藤城は思った。気のせいではなかった。木枯らしは確かにそう藤城に言ったのだった。


                THE END

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