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(34) 濡れそぼつ

 霧雨は降っていたが、掃いてしまおうと三崎は思った。若干、躊躇ちゅうちょする心がなかったかといえば、それは嘘になる。というのも、帰ったばかりで服装は背広姿だった。霧雨のしょぼ降りぐらいなら…と最初、思ったからだが、よくよく考えれば目に入った視界には落ち葉の広がりが相当程度あり、瞬間、すぐに終わるだろう…と思える状況ではなかったのだ。だから若干、躊躇した訳だが、結局はやってしまおう…という心の命で身体は動かされていた。

『申し訳ないですね…』

「えっ?!」

 突然、声をかけられた三崎は掃くほうきの手を止め、辺りを見回した。だが人の気配はなく、しょぼ降る霧雨だけだった。三崎は空耳そらみみか…と思った。残業で疲れていたことが三崎をそう思わせた。三崎はまた掃き始めた。早く終わらないと夕飯の準備ができない・・と思えた。単身赴任で早や一年、最近はようやく一人の暮らしにも馴れた三崎だったが、時間は待ってくれない。もう夕闇が迫っていた。今日は鍋にしよう・・と買ってきたスーパーの袋が玄関前に置いたままだった。入ろうとして、落ち葉を放っておけなくなった経緯いきさつがあったのだ。結果、三崎の律義な性格が箒を持たせていた。

『いや、もう少し待とうと思ったんですがね。私も命じられている身ですから仕方なく降らせた訳です』

 二度目の声に、三崎はまた手を止めて辺りを見回した。誰もいないのだから怖い話だ。冷静に考えれば家門の中なのだから、おとなう人がいれば気づくはずだった。三崎は、ふたたび掃き始めた。

『驚かせて、すみません。一応、謝っておこうと思ったまでです。いや、これでも遠慮はしたつもりなんですよ。霧雨でしょ』

 三崎は三度みたび、手を止めた。三崎は怖くなり、箒と塵取りを急いで隅へ置いた。気づけば落ち葉は一枚もなくなり、辺りは一面、綺麗になっている。三崎の心は恐怖心の半面、達成感であふれていた。三崎は買物袋を手にすると急いで家へ入った。

 玄関で靴を脱ぐと、背広の肩辺りはビッショリと濡れそぼっていた。いかんせん、地道な作業と奇妙な声に時間は20分以上も費やしたからだ。加えて、いつもは箒でサッ! と掃きとれる落ち葉が水分で地面を離れず、ことの他、手間どったこともあった。三崎は部屋の櫓炬燵やぐらごたつのスイッチを入れた。炬燵の中の濡れそぼった上着が乾いた頃、窓の外のしょぼ降りは、いつの間にかやんでいた。着替えた三崎はキッチンで鍋の具を刻み始めた。


                THE END

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