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(31) 秋の雲

 別に急ぐ必要はなかったが、民夫の心はいていた。急いていたのは真里に逢えるからだった。昨日、逢いたいと真里の方から携帯が入った。約束は10時だから、まだ30分ばかり余裕があった。

「待った?」

「いや、今来たとこ…」

 半時間待った、とは、とても言えない民夫だった。

「そう? よかった…。しばらく歩こうか」

 不満などあるはずもなかった。民夫は軽く(うなず)いた。二人は同時に歩きだしていた。

 空はすっかり秋めいて、青空にポッカリと秋の雲が浮かんでいる。爽やかに冷えた空気が清々(すがすが)しい。辺りは都会とはいえ自然公園だけのことはあり、時折りジョギングする人が通るくらいで、喧騒感はまったくなかった。

「私ね…帰らないといけないの」

「んっ? 今来たばっかりだよ」

「そうじゃなくって…」

 真里は突然、立ち止まると、浮かぶ秋の雲を指さした。民夫も立ち止って指先の雲を見上げたが、さっぱり真里の言葉が解せなかった。

「私、あの雲の彼方から来た宇宙人なの。昨日、帰るように命令が出たから、この星ではもう、あなたと逢えないの。よかったらあなたも来る?」

「えっ?! …」

 民夫は言葉を失った。真里の言葉が尋常とは思えなかった。真里が宇宙人な訳がない・・おそらく心を病んだか、下手(へた)な冗談・・いや、SF映画を見過ぎた挙句のなりきり思考か・・と思えた。

「馬鹿な冗談はやめろよ!」

 民夫は小笑いしてまた歩き出した。

「そう言うだろうけど、本当なの」

 真里は後ろ姿の民夫へそう言葉を投げかけた。民夫は、ふたたび立ち止ると振り返った。

「ははは…そういう映画、あったよな」

 民夫は否定したが、真里は真顔のまま右手の手の平を広げた。手の平には銀色の金属球が乗っていた。真里は(まぶた)を閉ざした。すると、真里の手の平に乗っていた金属球は(にわ)かに輝き始め、フワ~っと数センチ上昇した。

「マジックか!  これが見せたかったんだ」

 民夫は快活に言い切った。とても現実とは思えない展開だった。真里は静かに目を開けた。それと同時に銀球はストン! と真里の手の平へ落ちた。

「冗談でもマジックでもないわ。私は宇宙人なの」

 真里は静かに言い切った。その顔は笑っていない。民夫の顔から笑いが消えた。

「信じられないよ…」

「でも、ほんとう…」

 そう言うと真里は静かに歩きだした。民夫も続いた。

「俺も行く…」

「そう…。だったら明日の夜、月が昇る頃、この公園へ来て」

「ああ。分かったよ」

 次の夜、月が昇った。民夫と真里が静かに見上げる夜空から輝く未確認飛行物体(UFO)が静かに舞い降りた。謎の光が射し、やがて二人は船内へと消えていった。

 早朝、テレビ各局は未確認飛行物体の飛来を賑やかに報道した。空には秋の雲がぽっかりと浮かんでいた。


               THE END


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