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(25) つかれる人[2] 憑かれる人

 目眩めまいがして三塚は会社を早退した。入社して二十年経つが、こんなことは一度もなかった。俺ももう年か…と三塚は会社ビルを出ながら思うでなく思った。幸い、いてもいなくても変わらない平サラだから、どうも! と愛想いい笑顔の一つも見せ、ペコリと課長に頭を下げれば、あっ! そうなの? お大事に…で了解された。まあ、悪くいえば、存在感がまったくない訳だが、三塚にとっては楽に休めるのだった。とはいえ、ズル休みではなく、目眩は本当なのだ。この日は、別人と自分が思えるほど仕事がはかどり、課長は上機嫌で早退を認めてくれた。そこのところが今一、三塚には解せなかった。三塚はひとまずかかりつけの再入会病院へ行こうと足どりを速めた。

「おかしいですね…。異常な所見はありませんが?」

 神経外科、脳外科など一応、疑われるすべての検査を受けたが異常は認められず、主治医の内科医師、神田は首をひねった。

「そうですか…。いや、今までそんなことはなかったもんですから」

「万が一ということもありますから気持は分かります。で、どういった状況で?」

 神田は目眩が起きた状況をたずねた。

「それが妙なんです。別に家でどうってことはなかったんですがね。いつも通るバス停までの細道なんですよ」

「はあ…。そこんとこをもう少し詳しくお願いします」

「林の中をバス停に出る一本道なんですが…。先生にこんなことを言うのもなんなんですが、ピカッと目の前がして目眩がクラクラと。いや、立ちくらみ程度で、すぐ治まったんですがね」

「今回が初めてですか?」

「ええ…」

「お疲れなんでしょう、きっと。お薬をお出ししておきましょう」

 その日は、それで終わった。

 次の朝、気分も爽快に三塚はいつもの細道をバス停へと向かっていた。そのとき、また目の前がピカッ! と光り、三塚はクラクラと立ち眩んだ。しばらくして元に戻り辺りを見回すと、いつもの道である。三塚は、ふと思い出した。子供の頃、この森で遊んだな…と。おぼろげながら、その光景が脳裡を巡った。この森には古いほこらがあり、皆で遊ぶ日にはいつも何かをお供えした・・そんな記憶である。あの折りのお礼か…。しかし、あれから何十年、なぜ今になって? と思えた。バス停が近づいた頃、三塚はふと声を聞いた。

『シィ~! 黙ってそのまま歩いて下さい。停留所にいる他の人には私の声は聞こえておりません』

 三塚は声の指示に従ってバスに乗った。

『あなたのお思いのとおり、私はあのときの祠の神です。余りにあなたが不甲斐ないのが哀れに思え、昨日からいて仕事の手助けをさせて戴いておるのですよ』

 三塚は、それを聞いてすべてを合点がてんした。その日も昨日以上に仕事ははかどり、課長の覚えもめでたくスムースに終わった。

 こうして数か月が経った頃、三塚は係長を飛び越え一足飛びに副課長に昇進した。抜擢人事である。すべては、祠の神様のおかげだ・・とは思えたが、あれ以降、神様の声はなかった。

 それから二十年、定年前の三塚は取締役部長になっていた。ああ…今日で会社とも・・と思ったとき、あの声がした。

『ようやく終わりましたね。では、私もこれでおいとま致しましょう。お元気で! いい行いをすれば、少なくとも悪いむくいはありません。期待されても困りますが、こんな余慶よけいもあるということですよ』

「あっ! 待って下さい、神様! これから、どこへ?」

『ははは…それはあなたが、よくご存知のところですよ、三塚さん』

 三塚は森の祠だ…と思った。


                THE END

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