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(24) 厚化粧

 沙希は今朝もパタパタと鏡台で化粧を始めた。数年前から両目尻にカラスの足跡とか言われる細いしわが目立つようになっていた。それを隠そうと、工事的にパタパタとはたくのだが、一向に成果は得られなかった。もちろん、種々のクリームなどの化粧品は試していた。だが、効果がないと分かると、最近の沙希は鏡台に座るのもテンションが下がるのか、億劫おっくうになっていた。鏡台に座る回数は減ったが、座ればパタパタは、その都度、激しさを増した。

「お前な…」

 夫の智也はそんな沙希に、塗らなくても…と言おうとして、思わず口を閉ざした。言ってはいけない禁句のように思えた。これで、「今夜はスキ焼にするわ!」と、快活に言われた夕飯がフイになっては、たまったものではない…と思えたからだ。そうはいっても、ひび割れしそうな厚化粧は、どう考えても智也には馴染まなかった。いや、むしろ悪寒おかんがした。智也は素っぴんの方がまだいい…と、思った。

 あるとき、偶然にも二人で街へ出ることになった。

「店の前まででいいから…」

「んっ? いいよ。ついでにブラッとしようか、久しぶりに…」

 ここ数年、そんなことを夫から言われたことがない沙希は、内心、嬉しかったから、言葉を聞いたあと、ニッコリと無言でうなずいた。智也はそんな沙希を見て、しまった! よけいなことを…と思ったが、もう遅い。その半時間後、二人は車で走っていた。沙希はルンルンで、智也は……気分である。その低いテンションに輪をかけたのが、沙希の厚さ数ミリの厚化粧だった。そんな厚顔を見たくない智也はサングラスをかけて出た。

「あら? 珍しいわね…」

 沙希は一瞬、いぶかしげな表情を浮かべた。智也としては、お前の顔な…とは言えない。

「最近、ちょっと目が弱って、まぶしいからな」

 智也は我ながら上手く言えた…と満足しながら、沙希を横目に見てアクセルを踏む。スピードを上げ過ぎたとき、運悪くパトカーに見つかった。

『前の車、止まりなさい!』

 仕方なく、智也は道路の片側へ車を止めた。警官が降りてきて、免許証の提示を求め、違反切符を切った。

「…注意して下さいよ。では…!」

 警官はなにを思ったか、沙希の顔を見て大笑いした。沙希としては自分の顔を見られて笑われたものだから、面白くない。

「あらっ! なにか!!」

「いえ、失礼しました!」

 警官は必死に笑いをこらえながら敬礼し、パトカーに乗ると走り去ったが、その一分後、電柱に激突し、停止した。智也には、なぜかその訳が分かった。で、笑ってはいかん! と思え、身を引き締めた。

「行きましょ!!」

 沙希の鼻息はなぜか、荒かった。


                THE END

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