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(22) 柳の風

 季節が違う…と聖也は思った。幽霊がにぎわう相場は夏である。今は? と辺りをうかがえば、夕暮れで風がそよいでいるが、そうは暑くない。いや、どちらかといえば涼しさが幾らか出始めた初秋の夕暮れである。風に揺れる柳、川堀などもあるから、この辺りはとっておきの現れどころなのだ。ただ、季節が少し遅い感じだった。

 聖也は予想外の珍事であの世にったものだから、今一つ死んだ、という感覚がマヒしていた。死んだ途端、なぜか記憶がスゥ~っと途切れ、そしてふたたびスゥ~っと戻ったのだ。変わったことといえば、ただそれだけだった。だから、聖也には死んだ感覚がなかったのである。皆がそうなのかは別として、焼いた餅をのどに詰めて死んだなどとはダサくて、若い聖也には言えたものではなかった。聖也とすれば、やはりここはバイクを飛ばしガードレールに激突し・・でなければならないのだ。それに風が吹いて柳が揺れたとはいえ、幽霊で現れるなどはもってのほかだった。聖也がそんな気分で浮かんでいると、後ろから声をかけられた。

『ああ、新人さんですか?』

 驚きはしなかったが一瞬、ギクリとして聖也は声がする方向を見た。ひとりの、ダサそうな老人がひとり、同じようにさ迷っていた。足が消えていたから同類だと思えた。

『あなたは?』

『私ですか? 私は古くからここをねぐらにしている者です』

『塒? …ホームですか?』

『ははは…まあ、そのようなものでしょうか。もう、かれこれ百年になります』

『百年!!』

 聖也は、この言葉に驚かされた。余りにも古い。

『はい。誰もこなかったのですが、今日初めて、あなたが現れたんですよ』

 どうも、他の者はいないようだった。

『餅を喉に詰めましてね…。今となれば語れるんですが。死んだ当初は、格好悪くて、とても話せる気分ではなかったんですよ。まあ、話し相手もいなかったのが、勿怪もっけさいわいだったんですが…』

 いていないことまでよくしゃべるジジイだ…と、聖也は思った。待てよ! それはそうとして、死んだ原因は俺と同じだ…と聖也は気づいた。

『俺も餅喉なんですよ!』

 ロック歌手の聖也は、格好をつけて喉を指さした。

『私は歌舞伎役者!』

 その老人もまた、格好をつけて歌舞伎風に見得みえを切った。聖也は同じ方向なんだ・・とニタリとして見た。老人もニタリと笑った。二人は風に揺れる柳の回りを舞台に見立て、フワ~っと格好よく一回転した。どちらも少し、間抜けしていた。


               THE END

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