表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/146

(21) 残像

 めでたく新年が明け、遠くの山並みに昇る初日の出を見ながら勇は背伸びをした。この一年、どう過ごそうか…。確固とした計画もなにも立っていなかった。去年と同じで、また無為に一年が過ぎ去るのか・・と思えば、無性になにかしたい気分になった。

 気づけば車を止め、知らない街の繁華街を歩いていた。どう考えても、見た記憶が浮かばない街並みだった。落ちつけ! 落ちつくんだ! と、勇は自分に言い聞かせた。記憶をさかのぼろうと立ち止り、目をつむった。家を出て駐車した車に飛び乗った。…そこまでは、はっきりと覚えていた。住んでいる街を抜けてしばらく走り、隣街へ入った。…確か、そうだった。この辺りの残像はまだ確率が高い、と勇には思えた。ふと、不自然に立ち止っている自分に気づき、一端、まぶたを開けると歩道にあるベンチへ座った。そして、また目を瞑った。記憶の残像が、ふたたび脳裡を巡り始めた。そのとき、ふと小学校で習った日時計を勇は思い出した。目を開けて空を見れば、日は中天やや左に昇っていた。冬場だから日の運行は軌道が低い・・とは、知識にあった。家を出たのは7時半頃だった…という残像が幸いあり、今から逆算すれば約4時間は走っていた計算になる。勇は立ち上がると自動販売機で買い求めた缶コーヒーを啜りながら、駐車した車へ戻った。幸い一本道だから逆行して走ろう・・と勇は単純に思った。

 4時間ばかり走ると、どうにか記憶の残像にある街並みが見え始めた。やれやれ、戻ってきたんだ・・と勇は、ほっとした。冬の日没は早い。もう、夕暮れ近かった。

 家の駐車場へ車を止め、家へ入った。朝刊を新聞受けから取り出し、手にして驚いた。日付けは大晦日の12月31日だった。それも、新年を迎えた前の年の…。残像に残った新年は、まだ巡っていなかった。

『旧年中は、いろいろお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします、どうぞ、いいお年を…』

 すっかり暗くなった6時半過ぎ、勇が夕食を食べていると電話が入った。世話をした知人からだった。同じ残像を勇は思い出した。昨日もかかった電話だ…と思えた。勇は新年を迎えるのが、そら怖ろしくなった。もう家を出まい…と、除夜の鐘が鳴る中で思った。だがひと眠りした次の朝、勇の残像は消え去り、初日の出を見たあと、家を出ていた。


               THE END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ