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(17) 欲

 今朝は妙に冷えるな…と、荻窪一郎おぎくぼいちろうは思った。よく考えれば、家の温もりがあるだけ有難いのだ。昨日、通勤帰りで見た路上の浮浪者、川辺の姿が、ふと浮かんだ。川辺はかゆそうに首筋を掻きながらニヤリと笑った。寒風を避ける保温用の段ボール一枚で身をまとうホームレス・・おぞましく思え、目があった瞬間、一郎は川辺から視線を避けるように通り過ぎた。今、思い返せば、一郎は三年前、川辺の横で同じように段ボールで身を包んでいたのだ。それが空き缶を拾い集めに出て偶然、拾ったかばん。そして、その中の金。一郎は、無欲で警察へ届けた。だが、落としたという届け出は、ついになかった。届け出がなかったのは恐らく汚れた金だったからだ…と、一郎には思えた。笑った浮浪者の川辺は、その経緯いきさつを知っていたのか? そこまでは一郎にも分からなかった。 

 警察から受け取った金で、一郎は身だしなみを整えた。どういう訳か、その後の一郎はトントン拍子に運がよくなった。逆境からい上がろうとする意欲が彼を人生の成功へと導いた。そして、今の家庭が出来た。すでに、妻と結婚して二年、妻の実父の会社を引き継いだのは、つい一年前のことだった。ただ、あの頃の一郎と違うのは、意欲が失せ、ただ、おぞましい人間の業欲だけが一郎をむしばんでいたことだった。昨日、川辺に出会ったのは、欲に迷って出来た女との密会のあとだった。川辺から視線を避けたのは、その気まずさがあったのも確かだった。それを境に一郎は人生から転げ落ちていった。女がいたことが発覚し、家庭は崩壊。会社を追われ、養子に入った家は追い出された。

 一年後、一郎は路上の浮浪者になっていた。よく考えれば自業自得だった。今朝は妙に冷えるな…と、一郎は実感して思った。隣の川辺が痒そうに首筋を掻きながらニヤリと笑った。一郎は、おぞましく思わなかった。


                THE END

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