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(14) 一日<1>

 夜通よどおしは、きついな・・という気分で木本努きもとつとむ欠伸あくびをした。誰もいない暗闇の編集部にスタンドの灯りだけが白っぽくまばゆい。腕を見れば、すでに二時半ばは回っている。車通勤だから終電が過ぎた心配はなかったが、家まで20分少々を戻って眠ったとしても、七時に起きたとして四時間・・いや、正確にはすぐに寝つけないだろうから、正味は二、三時間も眠れれば、いい方だ…と木本の脳裡はグツグツと巡った。それで、そのまま社へ残ることにして、そのまま机にうつ伏せの姿勢で眠ることにした。幸い、季節はまだ夏の暑気が残る頃で、寒さは感じない。結果、六時過ぎまでウトウトと微睡まどろみ、小鳥のさえずりに薄目を開けると、早暁の明るさが課内を覆い始めていた。昨日も、まったく同じだったから、この椅子に一日、座っていることになる…と、ぼんやりと木本は思った。動いたと考えれば、トイレだけだった。朝は後輩の下田学しもだまなぶが菓子パンと牛乳などを買ってきてくれるはずだった。毎度のことだから、金は先払いにし、釣りはいいという手間賃がわりの条件で話ができていた。昼と夜は前の食堂が出前してくれるから、電話を入れるだけで事、足りた。夜七時まで店は暖簾のれんを下ろさなかったから、木本としては助かった。

 明日までにまとめろ! と編集長に釘を刺された原稿は、どうにかこうにか形になっていた。OKかボツかは別にして、とりあえずは怒られないだろう・・とは思えた。木本はデスクから据え置いた洗面用具の入ったバッグを手にすると席を立った。そして、トイレの化粧室へと向かった。中へ入った木本は、いつものように歯を磨き、顔を洗った。そのとき木本は異変に気づいた。歯を磨いている自分の姿がなかった。完全に消え去って、まったく人の気配がないトイレの内部が鏡に映っていた。しかし、木本は歯を磨いている感覚は確かにあった。自分の姿もはっきり見えていた。ただ、鏡に自分の姿はなかった。そんな馬鹿なことはない…俺、疲れてるな、と木本は目を指でこすりながら思った。まあ、些細ささいなことだ・・と、このときの木本はそう気にせず、タオルで顔をくとデスクへ戻った。

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