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(3) 消えた羊羹[ようかん]

 私の子供の頃の話なんですがね。その当時は終戦後の物資がまだ出回ってない頃でして、食い物にも事欠く有りさまだったんです。

 そう、あれは夏の暑い盛りでしたよ。私の父親の故郷へお盆に帰るってのが毎年の夏の恒例になってまして、この夏も帰った訳です。私は子供でしたから、田舎の従兄弟と遊べるのと昆虫採集とかが出来るってので、もの凄い楽しみにしておった訳です。それもそうなんですが、それ以上に楽しみだったのが美味しい食べ物の数々でした。なんといいましても、田舎の畑にはマクワ、トマト、スイカ、トウモロコシとかがいろいろありましたし、白い米だけのご飯が腹いっぱい食べられましたから…。そんなで、私は田舎の古びた茅葺屋根の従兄弟の家へ行った訳です。両親は私を連れて手ぶらで毎年、帰るのが、なんか心のわだかまりになってたんでしょうね。ある時から隣町の老舗の菓子屋で少し値の張った菓子鉢を買い求めるのが通例になっておりました。で、この年の進物は小箱に入った羊羹でした。母はその羊羹の入った小箱を大事そうに携え、父は扇子をパタパタと小忙しく動かしておったのを今でも憶えております。

 帰りますと、お盆ということもあったんでしょうが、両親は必ず仏壇に手を合わせておりました。当然のように、私も両親に従い、意味も分からないままそう致しました。まあ、いろいろあって、その日は遊び疲れで昼過ぎにはウトウトしておりました。そう、あれは三時過ぎだったでしょうか。目を覚ましますと、母が仏壇の前で首をかしげてるんですよ。私が、「どうかしたの?」とたずねますとね。母は、「ここに置いてあったお菓子の箱、知らない?」って言うんですよ。私は従兄弟と外で遊んでましたからね、知ってる訳がない。だから、単に、「知らないよ」って返したんです。母は、「じゃあもう、美佐枝さんが下げたのかしら…」って言うと、奥の間の方へ行ってしまいました。美佐枝というのは、父の兄の嫁さんなんですがね。

 その晩は大勢の楽しい夕飯となったんですが、私は腹が減っていたもんで勢いよく食べておりました。そうしますとね、母が何を思ったのか、ふと、「お義姉さん、お仏壇の…下げられました?」ってきましてね。美佐枝さんは、「えっ?!」って驚くんですよ。するとね、父がニタリと笑って、「そういや、父さん、甘いものが好きだったからなあ。持ってきた羊羹は特に好きだった…」と、しみじみ言うと、仏壇の方をじっと見たんですよ。伯父さんも「そうそう、そうだったなあ…」って話を合わせ、「たぶん、食っちまったんだろ」って二人で大笑いしたんですが、とうとうその羊羹の行方は不明のままで出てこなかったんです。いやあ、あとから聞いたんですが、そんな箱が置いてあったことも知らなかったって美佐枝さんは言ったそうですが…。そういう夏の怪談なんですが、いかがでしょう?

 実は、この話にはオチがありましてね。本当は父と伯父さんが話をしながら、こっそり食べてしまったようなんです。子供の私と従兄弟は食べてない訳ですから、大人の悪知恵で誤魔化したんでしょうねえ。とんだ怪談でした。

                        THE END

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