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(2) 声が聞こえる

「え~、必ず私は一票の格差をなくし、この日本が住みよい国になるよう努めて参りたい! かように思う、わけでございます!!」

 立ち止まった矢森透は、街頭で行われている選挙演説を冷めた目で聞いていた。

「ふん! どうだっていいさ…。どうせ変わらねえんだろ!」

 透の右隣にいた男がそう吐き捨てるようにいって立ち去った。透も同感に思え、その男の後ろに従った。足早やな透はいつの間にか緩慢に歩く男の横へ並んだ。突然、男が声をかけた。

「あんたも、そう思うかい?」

「はあ、まあ…」

 透は、ビクッ! として横を向き、そう返した。

「そうかい…。だよな、俺達とは住む世界が違うんだよ、政治家さんは…。なんか、上から目線に聞こえるのさ。あんた、どう思う?」

 憤懣ふんまんこの上ない・・と思える怒った声で、その男は透に同意を求めてたずねた。透は少し、その男に危険を感じた。

「そうですね…。じゃあ!」

 急いではいなかったが、知らぬ危険男の愚痴を聞くほどテンションは高くない。透はなに気なく交差点の通路を左へれ、男と別れた。今日は久しぶりの休みだし、映画を見て美味いものだ…。透にはその程度の考えしかなかった。選挙など、どうでもよかった。○×党で給料が上がるわけないさ…と、透は思った。そのとき天空から声がした。

━ あんた次第だよ、矢森さん ━

 その声を透は確かに聞きとれた。危険男で気がたかぶってるせいだ・・と思えた。だから余り気にはとめなかった。

 次に透がその声を聞いたのはバスの中だった。混雑したバスの中で、透は吊革を持ちながら窮屈さに耐えて立っていた。辺りは人いきれと熱気でせ返っていた。そんなとき突然、声がした。

━ どうだい? 調子は、矢森さん? ━

「あんたは、いったい誰だ!」

 空間を見回し、透は叫んでいた。周囲の者がいぶかしげに透を見た。思わず、透はうつむいた。

 そんなことが唐突とうとつにその後、三度ほど続き、透は自分が病気ではないかと思い、病院の門をくぐった。

「おかしいですね…。どこもお悪いところはないんですが…。少し、お疲れなんじゃないですか? 安定剤を出しておきましょう」

 脳神経外科、内科などでは異常がまったく見つからず、透は最後に訪れた精神科で、そう医師に告げられた。疲れてんだな、きっと…と、保も思った。

 その夜、保がベッドへ入りウトウトとまどろみ始めたとき、その声がまた聞こえた。

━ 明日あした起きれば、あんたは政治家だよ、矢森さん ━

 またか! と、透は掛布をかぶってその声を無視した。そしてやがて、深い眠りへと引き込まれていった。

 朝が巡り、透は肩をたたかれ起こされた。

「先生、起きて下さい! そろそろ街頭近くです」

「んっ!? …」

 透はなんのことかと思った。それより、一変した周囲の状況に驚かされた。そして、ゆっくり自分の姿に視線を向けた。背広を着ていた。肩には選挙立候補者のたすきをかけていた。かたわらにはハンドマイクがあった。

 その十分後、街頭の透は、どこかで聞いたような演説を聴衆の前でぶち上げていた。[やもり透]として、である。

「え~、必ず私は一票の格差をなくし、この日本が住みよい国になるよう努めて参りたい! かように思う、わけでございます!!」

 スラスラとその言葉が透の口から飛び出していた。透は一字一句、その演説を忘れていない自分が不思議でならなかった。

                        THE END

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