(88) リゾート地
佐山唯男にとってリゾート地とは、自宅以外のなにでもなかった。佐山がそんなオタク志向になったのには深い、深~~い訳があった。
話は数年前のことだ。この頃、佐山は多忙を極め、とても連休で旅に出る・・などという余裕はなかった。だから、人々が出かけるのを余所に佐山は仕事に明け暮れた。そんな佐山だったが、連休が終わると、ぽっかりと大きな仕事の穴ができ、俄かに休めることになった。さて、そうなると、どう過ごすか、である。連休も終わったことだし、交通事情もそう悪いはずもなく、佐山は旅に出ることにはした。ここ! といった目的地も浮かばず、佐山は旅行会社で決めよう…と思った。上手い具合に勤務先のすぐ近くに手頃な旅行会社があり、佐山は仕事帰りにその旅行会社へ立ち寄った。
「ここなんか、どうです? 手頃なリゾート地だと思うんですが…」
係の岡倉は愛想よい笑いでパンフレットを示した。ここが? とは思えたが、係員がそう言うんならそうなんだろう…と、佐山は割合とあっさり、その地に決めてしまった。後々(のちのち)思えば、それが、大凶だった。
さて、楽しみにしていた出発の日となり、佐山は浮かれ気分で自宅をあとにした。飛行機で数時間をかけ、目的のリゾート地近郊へと降り立った。あとはバスを乗り継いで、そのリゾート地へ向かうだけである。佐山の気分はこの段階で少し、高揚した。だが、その思いは揺れるバスの中で吹き飛んだ。とても、リゾート地へ向かっているようには思えなかったからだ。案の定、着いたリゾート地は、ここが?! と怒れる酷さだった。寛げるどころか、ほうほうの態で逃げ帰るのが落ちに思えた。まず、疲れを癒すホテルの設備が最悪だった。食べものも、冷えた石を齧っているように硬く、味がなかったから怒れた。まあ、それでも命の保証だけはあり、ようやく帰れる楽しい日となった。佐山はウキウキと、そのリゾート地? を離れた。普通、旅先を離れるときは涙を誘う郷愁だろうがっ! と、帰りのバスに揺られながら佐山は怒れた。
自宅へ戻ると、佐山には旅の余韻も充実感も何も残っていなかった。それどころか、返ってそのことが佐山のトラウマとなった。それ以降、佐山はリゾート地という言葉を信用していない。佐山にとってリゾート地とは、自宅以外のなにものでもなかった。
THE END




