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(81) ラスト・スマイル

 岳峰登は地方会社の山登りの会に所属するサラリーマンである。彼は学生の頃から山にれ親しみ、あちらこちらと山を渡り歩いた。…と、こう書けば、いかにもドラマに登場する格好いい二枚目に思えるのだが、その実は散々で、「お前は山登りは向いてないんじゃないか。家庭クラブへ入って、女子と料理を作った方がいいと思うよ」と、高校時代は同級生から言われた大食漢だった。彼の登山には半端じゃない食糧が必要だった。岳峰が向いてないと言われた理由は、そこにあった。非常食で十分、数日はいける…と思える量を岳峰の胃袋は必要としたのである。

 ある夏、数日の縦走登山をしたときのことである。メンバ-にとって、岳峰をともなう数日は、熊に遭遇そうぐうするのを恐れ、ビクついて登るのに等しかった。現地に到着し、登山口に着くまでは岳峰もなんとか空腹を我慢できた。ところが、である。

「おい! このリュック、軽かねぇか?」

 メンバーの一人が、そうつぶやいた。

「そんな訳、ねぇだろう。登りの休憩は俺がかついでたんだからな」

「だってお前、さっきの休憩で用を足したろ。離れたとき、ネズ岳がそばにいたぜ」

「ああっ!!」

「やられちまったな…」

「おい! 次は手放すなよ」

「ああ…」

 二人は苦笑した。岳峰は会社の登山部仲間にいつの間にかネズミの岳峰、略してネズ岳というありがたくない渾名あだなを頂戴していたのだった。

その食べる行動は迅速にして機敏だった。要は、あっ! という間に食べてしまう・・という訳だ。

 そんな岳峰がついに、山登りの会をめる決断をした。

「これ以上、僕が入ってますと、食い気で皆さんにご迷惑をおかけしますので…」

 岳峰の退会時の挨拶である。全員、そのとおりだ! とは思ったが、流石さすがに、そうとは言えず、愛想笑いで拍手した。

「ははは…、また機会があれば一緒にな!」

 心にもない言葉を部の一人が漏らし、直後、しまった! と後悔した。

「えっ! 本当ほんとですかっ! うれしいなあ」

「ははは…機会があればね。ところで、どこへ今度は、入るんだ」

 岳峰は満面の笑顔で笑った。これが彼のラスト・スマイルとなった。次の朝、岳峰の姿は忽然こつぜんと皆の前から消えた。出勤しない岳峰の行方は警察沙汰にまでなったが、ついに彼は発見されなかった。その頃、岳峰は天界の食堂で、ひとり優雅に握り飯を頬張ほおばっていた。


                 THE END

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