(80) 異星の使者
何をさせても出来る! と、他を唸らせる才能に恵まれた幼女がいた。幼女は生まれもって非凡だったのだが、彼女自身はそのことが嫌で、いつも平凡でありたい…と願っていた。そんな子供だったから、彼女はいつも他人より下手であろうと努めた。しかし、彼女の思いとは裏腹に、物事はすべて彼女を引き立て役へと回った。その結果、やはり彼女は他の子供とはどこか違い、光り輝く存在になっていた。
そして、時は流れた。他に異彩を放ちながら育った彼女は、高校へと進学していた。
「やはりあの子が受賞でしたか…」
美術教師が感嘆の声を上げた。
「ははは…、私は彼女だと思っとりました。なにせ、私の授業でも、私が教えて欲しいくらいの才ですからな…」
音楽教師は笑って返した。
下手に描いたはずの絵は、返って別の画法を編み出し、展覧会の特賞に輝いていた。美術教師が密かに出品させた作品だった。すでに異才は美術に限らず、音学でも花開こうとしていた。音楽の授業では見事なピアノ演奏を熟し作曲も手がけた。体育では、器械体操の名手として才能を遺憾なく発揮した。だが、これでも彼女は平凡であろう…と自分を抑えていたのである。すでに彼女は人間とは思えぬスーパーウーマンに成長していたのである。そんな彼女が忽然と皆の前から姿を消したのは、彼女が高校二年になった秋のある日のことだった。この日、学校では恒例の文化祭が行われていた。
「先生、どこにも、いません!」
「弱ったな…開演まで10分しかないぞ。ピアノ演奏は彼女しか出来んだろ?」
「はあ、まあ…」
音楽部の部長は顧問の教師へ朴訥に返した。このとき、彼女はそこに存在していた。ただ、皆の目には見えなかっただけのことである。彼女の能力は、この時点で遥かに人間を超越し、自らの意志で姿を消す能力を身につけていたのだった。そう…、実は何を隠そう、彼女は異星人だったのである。人類の蛮行に、地球滅亡を憂慮したX-β星人が極秘の調査のため派遣した異星の使者であった。
開演の時間となり、ピアノの鍵盤がなんの前触れもなく勝手に名曲を奏で始めた。会場はその異様さに一瞬、どよめいたが、次の瞬間、人がいないピアノ演奏に全員が唖然として聞き耳を立てていた。
THE END




