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(79) 猫繁盛

 江戸の半ば、大阪は船場の道修町どしょうまち界隈のお話でございます。道修町と申しますと、これはもう薬問屋が立ち並ぶ薬一色くすりいっしょくの町でございました。と、いいましても、私もこの目で見た訳ではございませんで、資料館なるものの歴史的な知識をお借りいたしましてお話を進めさせていただこうと、かように思う次第でございます。

 道修町のとある薬問屋の丁稚でっち留吉とめきちと申す年の頃はとおを出たての小僧がおりました。なかなか愛想のよい知己ちきに富んだ丁稚でございまして、店の者からは留吉とめきっとんと、親しみを込めて呼ばれていたそうにございます。知己に富むとは早い話、頭よし・・ということでございますかな。

 あるとき、この留吉とん、番頭の与助から頼まれました薬を小売の店へと届けに参ります。その道半ばのこと、前方の道脇に一匹の猫が立ち止って座り、じぃ~~っと留吉とんを見ております。留吉とん、けったいな猫やなぁ~…と思いながら、その猫の前を横切ります。するとどうしたことか、その猫は立ち上がり、留吉とんのあとを追いかけようといたします。それに気づいた留吉とん、「シィーシィーあっちへ行け!」と、追い払いますが、猫はいっこうに引き下がりません。根負けした留吉とん、まあ、仕方ないか…と、付いてくる猫のするに任せ、先を急ぎます。しばらく歩きまして、ようやく小売の店へ着きました留吉とん、店の暖簾のれんくぐろうと、ひと呼吸、整えます。

「おはようさんでございます! お届けものを、もて参じました!」

 留吉とん、暖簾越しに、大声を出します。そのときでございます! 猫は何を思うたか、ひと声、ミャ~~~! と、鳴きますというと、留吉とんの着物のすそくわえ、中へ入らせないよう、押しとどめます。その様子を店の手代が内より見ておりまして、あわてて飛び出て参ります。手代は猫を足蹴あしげりにしますというと、留吉とんから追い払います。猫は少し遠退いてけはいたしますが、それでもその店から離れようとはいたしません。座り込みますというと、またひと声、ミャ~~~! と、鳴きます。

「けったいな猫やでぇ~。ごくろうさんやったな。さあ、中へ…」

 その猫を横目に見ながら、手代は留吉とんを中へ招き入れます。留吉とん、訳が分からず、首をひねりながらも中へと入ります。そのときは、それだけのことで済んだのでございました。

 さて、日が改まりまして、また同じようなことが、別の店へ届けに行った先でも起こります。そのときの猫は、付いては来ましたが、店の前へ座りますというと、鳴きはしまへんで、そのまま静かにしておりました。そういうことが度々(たびたび)、ありまして、一年ばかりが過ぎ去った訳でございます。

 そうこうしたある日のこと、留吉とん、あることに思い当ります。

「鳴いた店は年が越せなんだ…。そやのに、おとなしゅうしとった店は繁盛しとる…」

 留吉とん、そうつぶやきながらその猫をじぃ~っと見ます。すると、その猫のひたいの真中に白い黒子ほくろが一つ、浮かび出ておるではございませんか。茶色の猫でございますから、なんとも不思議な話で、おやっ?! となりますわな。それに、黒子というものは黒いから黒子でございまして、白い黒子などというものは、まずないのが道理でございます。留吉とん、このことを番頭の与助に話します。与助は主人の嘉平に話します。嘉平は大層たいそう、驚きまして、留吉とんからこと仔細しさいを聞き出します。

「そないな不思議なことがあったんかいな…。そら、ここの神さんの使いやで! それに、違いない!」

 大層、信心深い嘉平は、店でその猫を飼うことにいたしました。それ以降、留吉とんの薬問屋は猫のお伺いのおかげで大繁盛し続けたそうにございます。

 え~~、古典風新作・猫繁盛にてご機嫌を伺わせていただきました。おあとが、よろしいようで…。


               THE END

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