(78) 国境
━ A国とB国は、とある諸島の領有権を主張して争っていた。端的に言えば、国境争いである。A国は長年、領有権は自国のものだとしながらも曖昧にしてきた諸島の国有化を推し進め、全世界へ宣言してしまったのである。のちになって関係者が陰で囁いたのは、国有化宣言は勇み足だったのではないか・・ということだった。さあさあ、この宣言で業を煮やしたのはB国である。その対抗策として、たびたび諸島周辺へ巡視の艦船を派遣し、A国を威嚇した。A国も負けじと、巡視艇でB国の艦船へ退去命令を出した。これでは埒が明かないと、B国は新たな策として領海識別圏という主張を国際社会にし、その諸島を自国の識別圏に組み入れた。事実上の国有化宣言だった。その結果、その諸島はA、B二国の国境が重複する島々となってしまったのである。
その頃、すでに世界情勢は大きく変化し、国際連合は破綻していた。様々な国際紛争を収束できなかったことに端を発したのである。その後の世界組織として、地球連合[地連]が創設された。地連本部は陸上にはなく、海面に浮かぶ大型空母の上であった。地連は、この問題に対し果敢に攻めの姿勢で取り組もうとした。まず、一方的にその島の領有権をA、B両国から剥奪し、地連領としたのである。そして、その島に属する権益に関しては、海水面と海底面に分割し、海水面の漁業権に関してはA、B両国に自由漁獲権を認め、海底面の権益に関してはA、B両国の収益を折半にする・・という裁定案を提示したのである。裁定案とはいえ、これにはある種の説得力があった。これにより、A、B両国の間で長年、もめ続けた領有権問題は解決を見た。地連が設立された究極の目標は、地球上から国境を失くし、将来的に地球上に生息するすべての人類を地球星人に統一しようという壮大なスケールの目標であった。そこが、過去に埋没した国際連盟、国際連合とは大きく異なった。地連には本部となる平和空母が存在し、世界の各国代表が乗り込んでいた。その艦内では国境の解消問題などの国際的な諸問題が真摯に討論、研究されていた。そしてその具体的解決案の策定化作業も進められていた。策定されれば、すぐ実行された。地球星という名の下に、拒否権などというまやかしは存在しなかった。語られる言葉は、国境を越え、新たに完成を見た地球語だった。━
アジアの領有権を主題とした国境問題の座談会は疾うに終わり、テレビ画面は白黒点が混在して瞬く、深夜となっていた。男は夢を見ていたのか…と思った。窓ガラスの外は雪が音もなく降っていた。男は急に寒さを覚え、熱いココアを啜った。いい夢だった…と思った。
THE END




