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(75) 湿[しめ]らせる男

 ウワッ! またあの男が来た! とけむたがられる男がいた。名を渡部という。この男がそばに来ると、妙に話が湿しめっぽくなり、場がお通夜になるのだった。かといって、この男が陰気で嫌な男なのかといえばそうでもなく、逆に能天気な陽気さがあふれるいい男だったのである。では、どうして陰気になるのか? という疑問が湧くのだが、実際にあった具体例をVTRでご覧になり、理解していただきたいと思う。

 ここは、とある公園である。大型連休の快晴の早朝、ジョギングに汗する人、早朝の散歩をする人、犬を連れて歩く人と、まあそれぞれ人々は動いていた。木々の鮮やかな新緑と新鮮な空気・・こずえから聞こえる小鳥達のさえずりと、あたりは自然を満喫まんきつするには至れり尽くせりの好条件だった。

「やあ! 石垣さんじゃありませんか!」

 ジョギングをしてい渡部が急に走るのをやめ、早朝の散歩を楽しむ石垣に近づいた。近づかれた石垣は躊躇ちゅうちょしたように戸惑とまどったが、時すでに遅し! である。渡部に見つかった以上、陰気になるのは、まず覚悟しなければならなかった。しかも、出会ったタイミングが悪い。連休半ば、今日はいい日にするぞ! と意気込んで散歩に出た早朝である。石垣の家族は全員が温泉旅行に出かけ、作家業の石垣が一人、とり残され、雑誌社に依頼された原稿でショボく家に籠っていた。わずかに世間と触れられる時間を石垣は貴重に思い、大切にしていた。そして愛犬のコロを連れて散歩に出た矢先、渡部に呼び止められたという寸法だ。

「これは、渡部さん…」

「早朝のお散歩ですか?」

「ええ、まあ…」 

「ははは…それは結構なことです。そういや、この辺りでした」

「はあ?」

 唐突とうとつな渡部の言葉に、石垣は理解できずき返していた。

「いや、なに…。つい先だって、この辺りで倒れられてお亡くなりになったんですよ」

「誰がです?」

「わたしのジョギング仲間でした…」

 場が急に陰気で湿っぽくなった。

「そうでしたか…。それはお悪いことが…」

「いや、気にせんで下さい。ははは、忘れて忘れて! じゃあ!」

 渡部は笑顔で軽くお辞儀すると、ジョギングを再開して走り去った。あとに残された石垣は陰鬱いんうつに湿ったままである。今日はいい日にするぞ! と出た心意気はすっかり消え去り、お通夜のような湿っぽさが石垣のまわりを取り巻いていた。

「コロ! 行くぞっ!」

 石垣はコロのリールを引っぱると歩き始めた。そして石垣は、面白くもないのにハッハッハッ…と笑って陰気さを振り払おうとした。その異様な笑い声に、辺りの人々は驚いて一斉いっせいに振り向き、石垣を見た。場がすっかり湿っぽくなった。


                 THE END

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