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(70) 一石ゼロ鳥

 何をやっても上手うまくいかない不器用な男がいた。つい先日など、ことのついでにと庭木の散水をしてホースを切るミスを犯した。どうすればホースをスッパリ切れるのか? と、誰もがきたいような話だが、この男の場合、いとも簡単にそれをやってのけた。ある種、凡ミスの達人ともいえる不器用さだった。しかも、それだけではない。この男がホースを切った庭木は見るも不格好な枝ぶりで、剪定? と首がひねれるお粗末さだった。これでは一石二鳥どころか、一石一鳥にもならない一石ゼロ鳥な訳である。まあ、他人がどうこう言う話ではない上に、有名作家ということで家人は何も言わなかったから、そのまま捨て置かれた。家人はすでに何を言っても無駄とあきらめたふしがあった。

 こんな男が世の中で役に立っているのか? といえば、それがどうして、ほどよい塩梅あんばいに役立っていた。まあ、一日中、座ってモノを書くだけの作家だから、役に立っているのかは疑わしかったが、それなりに彼の本は売れていて、印税も困らぬ程度に入っていたから役立っていたのだろう。彼の顔は世間に少なからず知られていたから、この不器用さはカバーされていた。困っていたのは出版業界などの彼の原稿関係だった。

 書斎に置かれた電話が鳴り、男は受話器を取り、対応していた。

「お忘れですか?」

「そうそう…、この前の依頼だったよね」

「ええ! そうですよ! 先生は忘れぬようにとメモっておられました!」

「それなんだがね…。うっかり原稿の書き損じた紙と一緒にゴミへ捨てたようなんだ」

「あの、ご依頼をお受けになったご記憶は?」

「ははは…。記憶できるくらいなら、私がメモるかね? 君」

 男は逆に編集者を切り返した。

「はあ、それはまあ…。ということは、手つかずで…」

「ああ、まあね…」

「まあじゃありませんよ、先生! 私が編集長に怒られます!」

 編集者は半泣きの声でうったえた。

「分かった分かった。そう言うなよ、君。いつまでだった、ソレ?」

「来週、火曜です!」

「よし、分かった。あさって取りに来るだろ? その原稿と一石二鳥で渡すよ」

「大丈夫ですか!?」

 100%疑った編集者の声がした。男は編集者に、まったく信用されていなかった。

「大丈夫、大丈夫!」

「本当に大丈夫ですか!?」

 信用できません! と口から出かけた言葉を必死にとどめ、編集者はくり返した。明らかに不信をあらわにした確認だった。

「ああ…。じゃあ、切るよ」

 男は編集者のくどさに少しムッとして電話を切った。

 来週の火曜は、瞬く間に巡った。表戸がガラッ! と開き、家人に案内された編集者がれたように書斎へ入ってきた。

「先生、原稿を取りに来ました。お願いします!」

「えっ!? 今日だった?」

 編集者は言葉を失い、ガックリと項垂うなだれた。

 男は原稿を依頼されたことすら忘れていた。一石ゼロ鳥だった。 


                THE END

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