(63) 資格
資格を取るのが生き甲斐という男がいた。元来、資格は生活するための仕事に就く手段なのだ。そういう意味では、資格を取ることを生き甲斐にするのは・・妙と言えば妙なのである。自己顕示欲が強い人間はそうした傾向が強いのだが、彼の場合はそうではなく、純粋に楽しみとしていた。資格を取るため勉強するプロセスが好きなのであり、資格を取ってしまえば、そんな資格、取ったか? と、忘れるような男だった。かといって、彼の行為が法律で罰せられるのか? といえば、まったくNo,だ。まあ、知らぬが仏・・で、どうでもいい話ではある。
「あなたは、確か…?」
男は偶然、隣り合わせたベンチの若者に声をかけられた。
「はあ…。こういう者です」
男は便宜上、作った名刺をポケットから出し、若者に手渡した。名刺には[資格の王者 ○○○○]と印字されていた。
「ああ、あなたがあの有名な資格の王者さんですか? この前、テレビで…」
「ははは…少し前でしたね」
俺も有名になったな…と、男は恐縮した。
「で、今はなにをなさってるんです?」
「えっ?」
男はギクリ! とした。とても『次の資格を取ろうと勉強中です』とは言えなかった。
「はあ、まあ…」
男は言葉を濁した。俺はなんのために資格を取ってるんだろう…? と、素朴な疑問が男に湧いた。
「じゃあ、僕、行きますので…。頑張って下さい!」
「どうも…」
若者はベンチを立つと、どこかへ消え去った。男は茫然と 立ち去る若者を見送った。
そのひと月後、男は資格取得の通信教育会社、アイキャンへ就職し、働いていた。
THE END




