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(62) 一品料理

「ははは…なにを今さら。私なんぞ、ずっと連休ですぞ。ねんがら年じゅう!」

 自慢っぽく賃貸マンションの大家おおや、黒豚が言った。彼は自慢じゃないが、飲み屋以外、このマンションから一歩も外へ出たことがない…と自慢にもならない話を自慢する変わり者である。すべての所用を助手兼雑用係の焼丸が一切、まかない、黒豚がやることと言えば、月一度のマンション住人に対する集金訪問だけだった。それも、ピンポ~~ンと押して、返事がなければ、二度目は焼丸が回るという怠慢ぷりだった。

「いやぁ~、あなたとこうして飲むのも、もう彼是かれこれ三十年ほどにもなりますな」

 小料理屋、茅葺かやぶきのカウンターで、串竹が突き出しを(つ)まみながら、そう言った。

「そうそう。あのマンションを建てたのがそれぐらいですからな。それ以降、あなたとはご昵懇じっこんにさせてもらってます」

 そう言うと、黒豚は生ビールのジョッキをグビリと飲んだ。二人は適当に語らい、酔いが回れば適当に分かれた。席を立つ合図は、助手の焼丸が迎えにきた頃合いになっていた。人々が行楽に浮かれる連休も、黒豚と串竹は飲んでは食すのが常だった。

「旦那、明日から数日は休みますんで…」

 申し訳なさそうに茅葺の主人、あし原が一品料理の芋の煮っ転がしの小鉢を二つ置きながら言った。この店の煮っ転がしは山椒さんしょう風味で実に美味だった。

「連休ですかな?」

「ははは…、家族にせがまれまして」

「夜っぴいて出られるか、下を走られた方が賢明ですな」

 黒豚が、ほんのりした赤ら顔の美味うまそうな顔で、自慢っぽく知ったかぶった。

「有難うございます。うちは夜行のバス予約でして…」

 空振りに終わった黒豚は撃沈し、芋の煮っ転がしをはしで摘まんだ。いや、それは一瞬、摘まんだように見えたが、生憎あいにく、カウンター下へと落ちて転がった。そこはそれ、変り者の黒豚である。酔いもあってか悪びれもせず、しゃがみ込んで下へ手を伸ばし、手の指で芋を摘まみ上げると口へ運んだ。きたねぇ~…と主人の葦原は思ったが、『客には言えねぇ~言えねぇ~』と思うにとどめ、天井てんじょうを見上げて目をらした。

「まあ、連休です。…いろいろありますな。家族サービスして下さい!」

 串竹が黒豚をフォローするように話題を刺し込んだ。黒豚は丸焼きにされた豚のような赤ら顔で、腕を見た。そろそろ、焼丸が迎えに来る頃合いだった。黒豚の勘は的中した。ガラッ! と戸が開き、焼丸が出来上った黒豚を盛り付けに来た。美味そうな一品料理が席をフラフラと立った。


              THE END

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