(59) 裁[さば]き
再審の法廷で、ああでもない、こうでもないと、原告被告側の双方が丁々発止の大激論を展開していた。主神はその光景を霞の上より静かにご覧になっておられた。
『人間の行いじゃのう…。双方とも間違っておるというに…』
溜め息混じりに主神は、そう仰せになった。
『いかが、いたしましょう?』
お付きの見習い神は、主神の傍らで畏まりながら伺った。
『捨ておきなさい。いずれ、その過ちは人間、自らが背負うことになるのじゃからのう。世が乱れれば、上手く裁けておらぬ、ということじゃ。世が平穏に住みよくなれば、それは上手く裁けておるということになる』
『ははっ! 最近、冤罪とやらで、無罪などと騒いでおりますが…』
『ほっほっほっ…愚かしくも情けなきことじゃて。裁きは一度限りじゃ。二度も裁くは真の見えぬアホウがすることである。ほっほっほっ…いずれ、世に現れるわ』
『と、申されますと?』
見習い神は訝しそうに主神を窺った。
『考えてもみよ。罪なき者が繋がれし間、罪ある者は悠々自適に暮らし、逃げ仰せておる。罪ある者が世に君臨し、罪なき者が世に出られぬとならば、上下倍の差、いや、数倍になるやもしれぬが、世の荒廃、隆盛の差となるであろう…』
主神は笑顔を見せられ、厳かな声で語られた。
『ならば、捨て置けぬのでは?』
『先ほども申したとおり、捨て置きなさい。裁きを誤まれし償いは、人間、自らが償わねばならぬ…』
『ははっ!』
法廷では、裁判が続いていた。主神は聞くに堪えぬという嘆かわしい顔つきで、両の耳を手でお塞ぎになった。
『行こうかの…』
主神と見習い神を乗せた霞は、法廷より空の彼方へと消え去った。
THE END




