(56) ド派手[はで]な男
春 爛漫、桜が咲き誇っている。そこへ一人のド 派手な男が現れた。この男が現れれば周囲の人々が全員、振り向く・・といったド派手さで、見る人々の度肝を抜いた。しかし人々は、誰もその男を知らなかった。
「誰だい? アレは?」
「さあ…」
通行人が二人、囁きながら男の前を通り過ぎた。
話は三年ばかり前に遡る。
春爛漫の桜が咲き誇っていた。その中にその男もいた。少し離れたところでは政界、芸能界などの有名人を囲み、[桜を楽しむ会]という催しごとが行われていた。その様子を遠目に、男は家から持参の特製ジュースを堪能しながらキャンバスに桜を描いていた。この男の場合、描き方が違った。桜を愛でる人々を含めて描くのである。人々も含め、満開に咲き誇る桜を一つの情景として描くのである。すでに桜花の下の人々は絵には欠かせない一部に溶け込んでいた。男の握る筆がなんとも流暢に流れ、一枚の油絵が完成していた。その間、僅か20分少々であった。男は世界に屈指の画壇の天才だった。だが、残念なことに、誰もその男の名を知らなかった。男は有名になりたい…と思った。だがそれは、マスコミの力が必要だった。男はふと、自分の服装を見遣った。なんとも地味だった。これでは駄目だな…と思えた。その日から、男はド派手な服装で出かけ、絵を描くようになった。
そして、月日は流れたのである。今日もその男は春爛漫の桜を遠目に、ド派手な服装で絵を描いていた。しかし、相変わらず、誰もその男のことを知らなかった。
THE END




