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(10) お気の毒

 無宗教のお別れの会が、しめやかにとり行われていた。ちょうど、某有名人のお別れの辞が読み終えられたところだった。ここは、とある私営葬祭場のホールである。会場は故人の遺徳をしのぶかのように、多くの弔問者でごった返していた。その数、ざっと数百名。映画やテレビでよく知られた有名人も多く列席していた。祭壇に飾られた遺影の壇田だんだは、彼らを見ながら、こんな俺のために態々(わざわざ)、来なくてもいいのにな…と、ぶつくさいいながら、餅をかじっていた。

━ ご遺族さまに続きまして、順次、ご献花をお願いいたします ━

 馴れた名調子で、葬儀社の進行係がマイクへ声を流す。遺影の向こうにいる死んだ壇田には、葬祭場の模様がテレビ画面で見るかのように克明こくめいに映し出されていた。むろん、献花する者達から見れば、ただの遺影でしかなかったのだが…。

「ほんとに、お気の毒なことでした…」

 後方に立つ稲首いなくびが、白菊の花を手にして、隣に立つ顔見知りの陸稲おかぼにそういった。

「残念なことです…」

 陸稲もポツンと返した。

『ふん! なにいってやがる、あいつら! 俺が死んで清々(せいせい)したって思ってるにちげえねえんだ! どうしてくれようか。よし! アレだな!』

 憤懣ふんまんやるかたない壇田は、そういうとガブリ! と餅を齧ってニンマリした。

 列は進んで次第に稲首と陸稲の献花する順が近づいてきた。そのとき異変が起きた。有り得ない異変だった。稲首と陸稲が最前列に来た瞬間、二人が手にした白菊の花がポロッ! と花の部分が折れ、床へ落ちたのである。それも二人同時だった。一瞬、多くの者の目が二人に浴びせられ、ホールは凍りついた。二人は慌てて床に落ちた花を拾い、手にする茎に添えて献花した。格好悪い無様ぶざまさだった。稲首と陸稲はソソクサと後方へ下がった。

『ははは…ざまぁみろってんだ!』

 そういうと、壇田はまた、ひと口、餅をガブリ! と齧った。

「ほんとうに…。いい方でございましたのにね」

「ええ…、お気の毒でございますわ~」

 銀座の高級クラブのママ、百合ゆり菖蒲あやめつぶやいた。

『なにが、お気の毒だ! 今度は、あの金盗り虫のクソばばあどもか!』

 壇田はニヤリとして残った餅を頬張ると、手にしたあの世の水をグイ飲みした。そのとき、光が射して厳かな声が壇田に届いた。

『そのとおりなのですが、それは私にお任せなさい。あなたが、そういうことをしちゃいけません! お気の毒な方だ…』

 壇田はいい返せなかった。最前列まで来ていた百合と菖蒲は、その瞬間、合掌したまま同時に、くしゃみをした。


                THE END

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