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(1) 照射銃

 ここは、とあるアパートである。紅葉山浩次は、ただひたすら、ある機器を作り続けていた。本来は六畳ある部屋の空間も、乱雑に散らばった機器部品や工具、そして製作のプログラムに使用されるPCパソコンあふれ返り、実質は四畳半、いや、三畳少しの狭さになっていた。その中で浩次は、ただひたすら機器を作り続けていた。

 突然、浩次は、その機器を手にした。

「よし! これでいいだろう」

 一応、完成した手ごたえに、浩次は思わずつぶやいた。浩次が作っていたのは照射銃である。形状は、ただの小型ピストルに似ていた。こんなものを世間で公然と見せれば、不審尋問されて警察沙汰になるのは必死だ・・と思えた。しかし幸い、その照射銃は小型で、いわば小型式リボルバー拳銃のような目立たない代物しろものに仕上がっていた。その照射銃の殺傷力は皆無で、真逆に悪い心根の者を正義の味方へと変えるものだった。

「ハハハ…」

 浩次は、まるで自分が正義の味方にでもなったように気分がよかった。そして、テロリストなんか、この気分の真逆なんだろうな…と思った。そう思った途端、にわかに腹がすいていることに気づいた。そうなるともう、いても立ってもいられない。浩次は安アパートを飛びだしていた。

 飛びだして一軒のパン屋の前へ来たとき、手に持つ銃を服の内ポケットへ収納した。遠目に見えたのが、あどけない女性店員だったからだ。実は、ほんの今まで店頭でためす気でいたのだ。それが、あどけない女性を見て、銃の必要がないと判断したのだった。

「あの…そこの揚げパンを三個、下さい」

「はい!」

 白い帽子に白い制服の若い女性店員は、愛想いい笑いを浮かべてガラスの陳列ケースを開けると、トングで浩次が指さす揚げパンを袋へ入れた。

「450円になります」

「あっ! …はい」

 財布には計算したかのように500円硬貨が一枚あり、浩次はそれを渡していた。袋と引き換えにそのコインを受け取ると、女性店員はレジから50円を出し、レシートに乗せ浩次へ返した。

「案外、安いんだね…」

 浩次は財布の中身と反比例した言葉を口にした。その原因を生物学的に紐解けば、雄性が雌性の魅力に引き付けられた・・とでもいえるものだった。

「えっ? ああ、はい! ありがとうございました…」

 女性店員の言葉のあと、浩次は軽く礼をすると店を出ていた。すっかり照射銃のことは忘れていた。歩きながら、ポケットをまさぐり、照射銃のことを思いだした。拳銃を凶器などと世間ではいう。では、これはどうなんだ? 浩次は自問自答した。吉器か…と少し笑え、声を上げた。通りすがりの者が妙な目でそんな浩次を振り返った。まあ、こんなケースでの使用はまずいな…と思った。アパートが近づいてきた。冷蔵庫には、きのう買ったミルクが冷やしてある。それに朝、でた卵が2個あった。その中の1個を食おう。それで十分だ…と浩次は思った。

 案外早く、照射銃を試す機会は訪れた。大学院はすでに単位修得を終え、修士論文もほぼ完成近くだったから、浩次は気軽に大学の門をくぐることが出来た。浩次が受けてきた講義の中で、学生の誰もから、いや世間一般の誰もから毛嫌いされるだろう・・と思われる醜悪な教授が一人いた。そんな教授がこの世に存在していいはずがなかろう…と誰もが認める毒々しい教授であった。獄山ごくやまといった。だが、直接、犯罪に手を染めたり悪に手を貸す軽輩ではなかった。ひとつひとつの行動が周囲の者を悪くする魔力を秘めた男だった。浩次はこの獄山教授にまとを絞った。卒業してからでは時期を逸する・・と思えた。となれば、問題はその絶好の機会をさぐることだった。

「どうした? 紅葉山君…。君は私のお蔭で卒業できるだろ? なにも心配することはないじゃないか、ふふふ…。いっておくが、これは犯罪じゃないぞ」

 そういうと、獄山教授は、半ば吸った煙草をポイ捨てると、足でもみ消した。

 浩次にすれば、むかっ腹が立つ振る舞いだった。思わず胸倉むなぐらつかまえてなぐりとばしたい衝動にられた。しかし、浩次はその悪意を善意で返した。おもむろにひそませた照射銃を背広の内ポケットから出すと、シュ~~っと、さもガススプレーを噴射する要領で、銃の引き金を引いた。特殊光線が獄山教授へ照射された。教授はそのまばゆさに顔をそむけた。

「な、なにをする!」

「いえ、べつに…」

 浩次に悪意とか殺意はまったくない。ごく普通の冷静な声でそういうと、銃を内ポケットへ収納した。五秒後、獄山教授の性格は一変していた。

「いやあ~、私はどうしたんだろうね? あっ! 紅葉山君じゃないか。君はよく頑張ったよ。君の努力は私も認めるしかないな、はははは…。いや、失敬。間違いなく学位は付与されるだろう、おめでとう。はははは…愉快愉快!」

 獄山教授はそういうとポイ捨てた煙草を拾い、背広の内ポケットへ、ばつ悪そうに入れながら立ち去った。浩次は成功だ! と思った。

                        THE END

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