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世界の境界を越えて芽吹く夢  作者: サクマ
第1章 漂着編
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第2話 荒野の洗礼

続きました第二話。

界徒君は向こうでは特別でしたが、こちらではもっと特別です。

 

 「楓ーーーっ!!」


 「猛ーーーっ!!」


 「恭一ーーーっ!!」


 「みんなーーっ!!いないのかあぁーーっ!!」



 界徒は力の限り、一緒にいたはずの三人の名前を叫ぶ。が、当然のごとく返事は返っ

て来ない。

 


 「少なくとも声が聞こえる範囲にはいないか。皆、無事だと良いんだけど・・・」


                 

 (それにしても此処は何処なんだ? 校舎から転移した(・・・・・・・・)のは間違いないんだろうけど)



 界徒が眼前に広がる荒野の風景を見て、真っ先に否定したのは自分が夢を見ている可

能性である。

 肌を刺すような日差し、砂利を含んだ熱い風、容赦なく体力を奪う暑い気温。これら

は『いま自分は夢を見ているんだ』とのたまうには、あまりにも現実味がありすぎる。

 それでも『これは夢』と決めつけてしまえば楽なのだろうが、それをするには界徒の

理性は強固すぎた。

 何より校舎内に居た時に感じたあの感覚まで、【夢】と判断して切り捨てることが出

来なかった。



 (普通に考えれば、【飲み込まれた】か【召喚された】かのどちらか・・・)



 界徒は自分が置かれた状況を分析していく。

 彼の考えでは後者の可能性が高い。

 ただ、状況の分析を行うのは兎も角、普通の日本の高校生がこの状況下で、冷静に分

析出来るのはおかしいだろう。

 普通なら茫然自失となるか軽く錯乱するかのどちらかだ。



 (【飲み込まれた】可能性はまずない。もし、仮にそうだとしたら転移直前に見えた

 アレは不自然だ・・・)

 


 界徒の言う【飲み込まれた】というのはいわば災害、自然現象のことである。発生頻

度が天文学的な確率の低さとはいえ、自然現象である以上発生しないとは言い切れない。

 本当に【飲み込まれた】のであれば運が悪かったと割り切るしかないが、界徒が【飲

み込まれた】ことを否定するのは、確率以外の別の理由からだ。


 強い黄金の光で目の前が眩む一瞬、確かにそれを見たのだ。



 (文字と記号・・・・)



 前述の通り、【飲み込まれる】とは自然現象である。強い光が発生するのもその一環

と捉えることも出来るが、いくら何でも自然現象で文字や記号は浮かぶとは思えない。

 となれば、何者かが人為的にあの現象を引き起こしたと考えるのが普通だ。


 残る可能性は【召喚】。


 しかし、仮に【召喚された】のであれば別の疑問が浮かんでくる。



 (何でこんな場所に【召喚された】んだ?そして【召喚者】は何処にいるんだ?)



 召喚は決して自然発生する現象では無い。召喚は【呼ぶ者】と【呼ばれた者】が居て

初めて成立する。


 召喚の対象が界徒個人なのか、それとも別の誰かだったのか、もしくはあの時校舎に

居た生徒全員なのかは分からないが、少なくとも【呼ばれた者】が界徒なら、当然の如

く界徒を【呼ぶ者】がいなくてはならない。だがこの場には界徒以外の人間は見当たら

ない。


 また、召喚は簡単に出来る技術ではない。相応の技量を持つ術者が、召喚に最適な条

件を整え、召喚に必要な媒体を揃えなくてはならない。界徒がいる周辺にはそれらの痕

跡どころか、召喚を行った形跡すらない。


 召喚者が別の場所で、界徒の召喚を行ったと考えられなくもないが、だとしたら界徒

をわざわざこんな場所に召喚する理由が分からない。


 いくら考えても、悩んでも答えは出てこない。


 「こんな場所でいつまでも考えていても仕方がない。とにかく人里を探そう」


 頭を切り替えて、人が住んでいる場所を探すことにする。今の自分には食料などない

のだ。こんな所に何時までもいたら、確実に飢え死にしてしまう。

 悲観していても仕方がないのなら、少しでも前向きに行動すべきだろう。

 

 今の自分の持ち物を再度確認を行い、方角を調べる。

 腕時計の短針を太陽に向け、短針と文字盤の「12」の数字との二等分線からどの方向

が南か割り出す。

 

 「まずは、北に向かって進んでみよう」


 とりあえずの方針を決めたその時。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!



 「ッ!?」



 突然、自分の足元から地響きと猛烈な殺気を感じ、あわててその場を飛び退く。

 その直後、界徒がさっきまで居た場所からいくつもの突起物が出現し、そのまま続け

て巨大な肉塊のような物が現れた。



 「何だっ!!?」



 界徒は突然出現したものを見て、絶句する。

 あえて表現するならばそれは【ミミズ】、それも【巨大ミミズ】である。

 もっとも、その大きさと姿は界徒の知るミミズとは似ても似つかない。

 地上に出ている部分だけでも、優に十メートルはあろうかという巨体。胴回りも直径

が五メートルは超えていよう。

 口部とおぼしき場所には、人間の胴回り程もありそうな巨大な牙が、数十本も並んで

いる。鎌首をこちらにもたげているので、それが不規則に蠢いていているのが分かるが

正直不気味極まりない。

 さらに口から垂れる唾液は強酸性なのだろうか、地面に落ちるとジュッと音と煙を上

げた。その様が一層恐怖心を煽る。 



 「ここが地球じゃないのはもう間違い無いか・・・」



 つい”何を今さら”的なセルフを吐いてしまう。

 あれほどの巨大な陸上生物は、映画の中ぐらいにしか存在しないだろう。

 よく出来たセット等という考えは、巨大ミミズから発せられる体臭と動きで否定され

るだろう。名状しがたいこの匂いとあの動きは、人の手では再現しかねる。


 そんなことより、自分の足元から出てきたということは、まず間違いなく獲物は自分

だろう。昨日までの常識が今はもう通用しない。ココでは一瞬の気の緩みが即【死】に

結びつく。

 それを痛感するのにコレはこれ以上ない洗礼ではあるが、正直強烈すぎる。


 巨大ミミズは自前の牙を不規則に動かしながら、こちらの様子を窺っていると思った

ら、突然頭部が襲いかかってきた。



 「うわっ!?」



 横に跳び、間一髪で巨大ミミズの突撃を躱す。

 着地に失敗して、転げまわってしまったが直ぐに立ち上がり、この場から離れるべく

走り出す。

 巨大ミミズの方はすぐに頭部を出さず、地中に潜ったまま。地中から一飲みにするチ

ャンスを窺っているのだろうか?

 


 (逃げるのはっ・・・!?)

 


 走りながら、改めて周りの風景を見回す。

 一面三六〇度地平線が見える荒野だ。身を隠す物も、避難する高台もない。

 先程と同じ地響きと殺気を足元から感じ、走るスピードを上げる。

 走る界徒のすぐ後ろの地面から、巨大ミミズの牙と巨躯が出現した。

 


 (却下かっ!!)



 なにしろあの巨体と捕食方法だ。下手に動きを止めるのは「どうぞ食べて下さい」と

言っているのと同義だ。

 巨大ミミズは再突撃を敢行し、それを界徒に躱されるとそのまま地中に潜っていって

しまう。

 行動パターンこそ単純だが、いつまでも避け続けられはしない。

  


 (ヤルしかないっ!!)



 このままでは、食い殺されてしまう。

 界徒は覚悟を決め、巨大ミミズから感じる殺気を頼りに自分との位置を把握、走る速

度を更に上げ一気に距離を稼ぐ。

 充分な距離を取ったところで、立ち止まり息を整える。



 目を閉じ、瞑想を行う。



  ―自身の脳裏に、一つの魔術式を思い浮かべる―



 両手を合わせ、自身の両腕を一つの輪に見立てる。



  ―その輪の中に、全身から力が流れ込み、循環するのをイメージする―



 印を結び、詠唱を行う。



 「光よわが手より瞬け。光弾となって駆けろ、爆音と共に去れ。我が敵を破砕せよ」



  ―力の流れを加速させ、その流れの中に様々な”色”を見出す―


  ―色の付いた力の流れを、思い浮かべた魔術式に向ける―

 

  ―力を受けた魔術式が、万華鏡のように輝き稼働していくの感じ取る―



 自分の両手の中で力が高まっていくのが分かる。


 もう使うことは無いと思っていた。それでもこの十年間かかさず鍛錬してきた。

 

 巨大ミミズの頭部が地中から出現し、その牙を界徒に向ける。


【恩師様】から教えを受け、【兄弟】達と一緒に会得し、それを研鑽し続けてきた。

  

 巨大ミミズが先程以上の速さで突撃を仕掛けてくる。


 両手を前へ掲げ、思い浮かべた魔術式を顕現させる。

 

 高まったその力を、巨大ミミズに向けて解き放つ。




 「輝弾爆撃衝フルグオス・イルムプス!!!」




 両手の魔方陣から輝く光の弾丸が一直線に飛んで行き、巨大ミミズの頭部に命中した

瞬間。


 巨大ミミズの頭部は大爆発し、周囲に大音量の爆音が響き渡る。


 そのままピクリとも動かなくなったが、燻っていた煙が晴れるとそこには巨大ミミズ

の頭部は存在していなかった。

 煙が晴れたのとほぼ同時に巨体は傾き、そのまま大地に倒れ動かなくなる。


 界徒は巨大ミミズが動かなくなったのを見て、思わず息をつく。



 「異世界は危険がイッパイってことだね。インパクト強すぎでしょ・・・」



 界徒は自分の両手を見つめる。

                   

 彼が今しがた使用したのは紛れもなく【魔法(・・)


 彼が先刻までいた世界の人間にはない【()】 


(うまくいって良かった・・・)


 自身の力を問題なく使えたことと、自身の命の安全を確保できたことに安堵する。


 ここでは生きるか死ぬかが全て。


 そして自分は生を掴んだ。


 とりあえず調べようと近づくが、突然巨大ミミズの体が崩れ無散してしまった。

 これには界徒も茫然となる。



 「【生物】としても怪しいのか・・・」



 それでも、いつまでも呆けてはいられない。

 改めて太陽を見ると、もう陽は沈みかけていた。慌てて先程と同じ方法で方角の確認

を行い、北の方角がどちらか割り出し、歩き出す。

 こういった場所は昼夜の気温差が激しい。太陽の日差しや熱で体力を奪われない、日

の出と日没に行動するのが望ましい。






 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★






 三~四時間程歩いただろうか。陽は沈み替わりに昇った月が荒野を照らしていた。

 月も星も綺麗な夜空だが、とても鑑賞できる気分ではない。 


 この世界に来た時と違って冷え込んできている。


 これ以上の探索を諦め、野宿することにする。

 界徒はまた両手を合わせ、一通り印を結んだ後、両手を地面に付ける。

 すると、地面にいくつもの小さな溝が出き、やがて魔法陣のようなモノが完成した。


 (魔物避けの結界はこんなものかな。あとは・・・)


 腰の後ろに付いているカードケース状の物から、一枚の札を取り出しそれを魔法陣の

中に放り入れる。

 カードが地面に付いた瞬間に煙が発生する。その煙が晴れると其処には、先程までは

無かったはずの一人用の小さなテントがあった。界徒はテントに入り込みそのまま横に

なる。


 テントの天井を見つめながら物思いに耽る。思うは幼馴染の三人の安否。

 

 (皆無事だろうか?もし、僕と同じように【こちら側】に来ているのなら・・・)  


 界徒は【こちら側】に来てすぐ命の危機に直面したのだ。他の三人は一般人だ、自分

の時のように巨大ミミズのような怪物相手に、自身の身を守る術を持ち合わせているは

思えない。

 勿論、怪物に遭遇せず良心的な人に保護されている可能性だってある。だが、昨日ま

での常識はもう通用しない。それだけでも充分命の危機だ。 



 (皆、どうか無事で・・・)

 


 三人の無事を願い、目を閉じる。

 明日に備えるため、そのまま眠りについた。







 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★          







 何度見ても、見回しても目に映るのは荒れた大地。


 ただただひたすらに続く荒野。


 移動は日の出と日没に行い、日中は穴を掘ってその中で過ごす。


 この荒野に来て既に丸三日が過ぎ今日で四日目。行けども行けども変わり映えしない

大地が続くのみ。

 時折、太陽と腕時計で方角を確認しながら進んでいるが、人はおろか獣一匹見当たら

ない。



 (これは、不味いかな・・・)



 あれから巨大ミミズのような怪物には遭遇していないが、この三日間何も口にしてい

ないのだ。飲み水は自身の魔法で何とかしているので、渇きについては今のところ大丈

夫だが、それでも限界に近づきつつある。

 界徒は割と小食で、断食も何度か経験したことがあるから餓えにはいくらか我慢がで

きる。しかしここは荒野、昼は暑く夜は寒い。昼夜の気温差だけでも体力が削られる、

それなのに体力を回復させるための食料が手に入らないのだ。何しろこの辺には雑草さ

え生えていない。

 変わり映えしない景色を見ながらの強行軍は、精神的にも負担が強い。こんな環境で

一人きりでの断食と探索は、体力的にも精神的にも限界だ。

 遠からず飢え死にするか、発狂するかの二つに一つ。もしくはその両方。



 (体力がある内に賭けるしかないか・・・)



 このままではジリ貧、ならばここで賭けに出るしかない。


 一度立ち止まり足に力が集束するのを、背中から翼が生えるのをイメージし詠唱を行

う。



 「我が求めるは翼。その羽ばたきにて天を舞い、空を駆ける」


 「天翼飛翔(フラテス・ペタノ)

 

 

 界徒の背中に、魔法陣のようなものが展開され、その場から垂直に上昇した。

 二十~三十メートルほどの高さで一旦停止し、前に向かって飛行を開始する。

 歩いていた時とは比べ物にならないスピードで飛んでいる。空を飛べるなら最初から

そうしていればと思わなくないが、飛翔は歩くよりも体力を消耗する。

 その上、文字通り飛んでいるところを誰かに見られて怪しまれたら目も当てられない

ことになる。


 


 二時間程飛び続けただろうか、視界に変化が現れた。

 進行方向の右斜め前、一時の方向に小山らしきものが見えてきたのだ。

 

 (もしかしたら何かあるかもしれない)


 まだまだ距離があるのでよく分からない。もしかしたらただの岩山という可能性もあ

る。

 それでも界徒は一縷の望みを賭けて、その小山に進路をとろうとする。

 その時、界徒は視界に別の何かを捉えた。


 それは全速力で走っている幌馬車と、それを追い駆けている赤い獣の群れだった。


 すぐさま山へ向かうのを止め、馬車を追うことにする。

 

 獣はおよそ七匹程。馬車とはまだ距離が空いているが、獣の方が馬車よりも僅かに速

く徐々に距離を詰めていっている。馬車側からも矢を射るなどして牽制しているが、あ

まり効果は無いようだ。


 界徒は馬車に加勢すべきか迷う。

 普通なら加勢するところだが、今彼は空を飛んでいるのだ。加勢したところで怪しさ

満点である。

 下手をしたら獣を追い払った後に、興奮した馬車に乗っている人たちから攻撃される

可能性もある。

 だが、このまま見捨てるのはさすがに寝覚めが悪いし、食料も情報も欲しい。

 最悪、助けた後に仕留めた獣を一頭拝借して逃走、安全を確保した後に獣の肉を食べ

ればいい。



「よしっ!加勢しよう!」



 加勢することを決め、馬車に近づこうとした時、


 馬車から人らしきモノが転がり落ちた。



最初からやらかしました

界徒君は魔法が使えます。

空もとべます。

でも彼がここまで出来るのには、ちゃんと理由があります。

それについては、物語を続けていくうちに明らかにします。

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