第1話 崩れた日常
本作品を目に留めていただき有難う御座います。何分書き手が未熟者のなので誤字・脱字、内容の矛盾、ご都合主義が含まれますがご容赦願います。
「お~い!そこどいてくれ~!」
「看板とおるぞ!道開けろ」
「ねぇそこの飾りつけ、落ちてるよ」
「すぐ直すよ。だれか脚立押さえててくれ」
「明日のメニューの材料の確認、終わったのか?」
「ごめん。もうすぐ終わるから待ってて」
「ワリィ、ペンキが切れちまった。まだ使ってないのあるか?」
「もう全部使っちゃったよ。だれか買い出しに行ってきてくれ」
衣替えを迎えてまもない、とある学園の風景。夏服姿の生徒たちが学校の敷地内をところ狭しと駆けまわっていた。
高校生活一大イベントの学園祭に、生徒全員大忙しだ。
「いよいよ明日か。」
その学校の屋上で、一人の生徒が夕日をあびながら、学園祭の準備が整いつつある校庭の様子をみて呟く。
「なに一人で黄昏てんだよ?界徒」
「別に。いよいよ明日は高校生活二回目の学園祭なんだなって、そう思っただけだよ」
視線をフェンス越しに見える校庭からはずし、体を声がした後方に向けながら答える。
新たに視線を向けた先には、予想通り腐れ縁の悪友が屋上の扉の所に立っていた。
「感慨にふけるのはいいけどよ。お前、自分のクラスの出し物の準備大丈夫なのか?」
屋上から教室に戻る途中、生徒たちで賑わう廊下を歩きながら、悪友の宮田 猛が問いかけてくる。
幼馴染でもある彼は、百七十五センチの界徒より十センチ背が高い。
自然、界徒からは猛を見上げ、猛からは界徒を見下ろす構図が出来上がる。
「勿論。学園祭の準備は概ね終わってて、今クラスの皆で材料や内装の最終チェックをしてるはずだよ」
「お前はそれを手伝わなくていいのかよ?」
「ちゃんと手伝おうとしたさ。手伝おうとしたら『星神は働きすぎだから、明日に備えて今から休んどけっ!』って楓と恭一を筆頭にクラスの皆から、そう言われた」
自分と違って真面目なはずの旧友が何故、一人屋上に居るのかと思ったが、ある意味予想していた答えが返ってきたので、猛は思わずため息をついてしまう。
「お前な、高校生活中最大イベントの学園祭だからハリキンのは分かるけどよ。フツウ高校の文化祭の準備でンなこと言われねぇぞ」
「張り切っているのは否定しないけど、僕一人だけクラスの皆から心配される程に働いた覚えはないよ」
「端からみたら、お前は十人分以上働いてるように見えんだよっ!」
「表現が大げさだよ。猛」
(だめだこりゃ・・・)
当の本人の無自覚さに、毎度毎度の事ながら猛は呆れてしまう。
彼、星神 界徒は自分自身のことを、どこにでもいるただの一般人Aと本気で思っているようだが、周囲の人間の認識は違う。
確かに背は高く、顔立ちも整っており学業も優秀な部類に入る。ただし背丈も容姿も、隣を歩く宮田 猛と比べれば劣ると言わざるを得ないし、学校での成績ももう一人の幼馴染である陽ノ元 楓には敵わない。これだけだと、可もなく不可もない器用貧乏な少年Aであるが、彼を特別にしている要素は他にある。
それは身体能力と格闘能力。同世代はもとより、大の大人を遥かに上回るレベルの持ち主なのだ。
十歳のころに、町道場で重量級の高校生を投げ飛ばしたのはじめ、五十人近い不良の集団を一人で叩きのめしたり、素行の悪い格闘選手をブチのめしたりと武勇伝にこと欠かない。
それでいて偉ぶらず、持ち前の能力をボランティア活動に活かしているのは立派なのだろうが、スポーツや格闘技に生かさないのは正直勿体ないのではと、猛は思ってしまう。
その後は他愛無い話を二人で続け、界徒の教室に到着する。
教室の入り口についている看板の名前は、「執事&メイド喫茶」。コンセプトについてはスルーするが、高校生の出し物として喫茶店は定番だ。
「ただいま。って他の皆は?」
「界徒君遅い!休んでてって言ったけど遅すぎだよ!」
教室のドアを開けて入ると、一人の女子生徒が全然怖くないふくれ顔で、界徒と猛を出迎える。
彼女の名前は、陽ノ元 楓。
界徒と猛の幼馴染で、容姿は十人中十人とも「可愛い」と評する顔立ち。
腰まで伸びる長い栗色の髪は綺麗で、体の動きに合わせて流れるようになびく。
加えて成績優秀で運動神経もバツグン、文武両道を地でいく少女である。
今の彼女はメイド服ではなく、学校指定の制服を着ている。
「ごめんごめん。それで他のクラスの皆は?」
「最後のチェックは終わって、今は細かいところを直している。
そんなに手の掛かる内容じゃないから、他の皆には一足先に帰ってもらった。星神が戻ってくるのを、クラスメイト全員で待つ必要は無いからな。」
楓の代わりに彼女の後ろにいた男子生徒が答える。
彼の名前は綾辻 恭一。
銀縁の眼鏡をかけた中性的な顔立ちの少年は、知的かつ落ち着いた雰囲気を常に纏っているが、それと同時に相手に対してどことなく安心感を抱かせる。
知的な印象通り、学業は四人の中でも優秀で、学年の成績は常にトップ。
界徒と楓と同じクラスで学級委員を務めており、界徒・猛・楓の三名とは中学生からの付き合いである。
彼も執事服ではなく、制服を着用している。
「そう。なら僕も手伝うから、残りの作業を終わらせて早く帰ろうか。」
「じゃ、俺もも手伝うぜ」
「今思ったんだけど、猛は自分のクラスの準備はいいの?」
「今頃聞くなバカ。俺のクラスも準備は終わってるから、二人の代わりに俺が屋上まで迎えに行ったんだよ」
「そうだったのか。てっきり僕を口実にサボッてるんだと思ってたよ」
「お前はさらりと毒を吐くな」
彼ら四人の内、猛だけが別のクラスに所属している。彼のクラスの出し物はこれまた定番のお化け屋敷である。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
すっかり日も暮れ、学園祭準備の為の喧騒も止み、校内の生徒がまばらになった頃。
「界徒のところは例年通り、家族総出で来るのか?」
「うん、二日間とも必ず行くって言ってるよ。折角の休日なんだからどちらか一日だけでいいって言ってるんだけどね」
「家族仲が良くていいじゃないか」
「そうだよ。界徒君」
残りの作業を無事に終え、昇降口で上履きから下履きに履き替えながら、明日からの学園祭にくる家族についておしゃべりに興じる。
(家族か・・・・)
確かに界徒は家族との仲がいい。両親は二人揃って放任主義なところがあるが、しっかり自分を見てくれている。一つ上の姉と一つ下の妹は自分に対して、過保護なところと心配性なところがあるが、姉弟仲は良好だ。
・・
ただ【家族】のことを考えると、【兄弟】達のことも考えてしまう。
(皆、どうしているんだろうか・・・)
【兄弟】達とは血のつながりがない。それでも同じ【義兄】を持ち、同じ【恩師様】から教えを授かり、同じ【誓い】をたてた。【兄弟】達との絆は血のつながりよりも強いと今でも信じているし、そう言える。
【兄弟】達がいま何処に居て何をしているのかは分からない。それでも無事を願わずにはいられない。
「界徒君、どうしたの?」
「えっ?」
かけられた声に反応して顔をあげる。
気が付くと楓が心配そうな顔で、界徒を見つめていた。
「ああ・・・ごめん。ちょっと考え事をね・・・・」
「そう・・・なら良いんだけど」
界徒は何でも無いよう取り繕うが、楓は納得していないようだった。
「界徒ーっ!! 楓ーっ!! 何やってんだーっ!?」
昇降口の出口から猛が二人に声をかける。
「ほら、猛と恭一が待っているから行こう」
「う、うん・・・」
まだ心配そうな顔で自分を見る楓を元気づけるように、彼女の肩を軽く叩いて二人が待つ出口へ一緒に行こうとする。
その一歩を踏み出した瞬間、
―ドクンッ!―
全身を圧迫されたまま浮遊感を感じるという、奇妙な感覚に囚われる。
(今の感覚はっ・・・・!!)
右手で心臓をつかむような体勢のまま、顔に驚きの色を浮かべる。
「ちょ、ちょっと! 界徒君、本当に大丈夫なの!?」
楓も界徒が様子がおかしいことに気づき、容体を確かめようとする。
当の界徒は、驚きを隠せぬまま自分を心配する楓に対して、
「楓、今変な感覚が・・・」
自分が感じた奇妙な感覚を感じなかったか質問しようとするが、言い終わるよりも前に、
「うわあああああああぁぁぁぁぁっっ!!!」
「きゃあああああああぁぁぁぁぁっっ!!!」
複数の男女の悲鳴が校舎内に響き渡った。
「かっ、界徒君っ! 今のなにっ!?」
「おい、何だよっ? 今の悲鳴はっ!?」
「今の悲鳴、ただ事じゃないぞっ!!」
楓は思わず界徒にしがみつき、不安の色を顔に浮かべて彼をみつめる。
猛と恭一も校舎内に戻ってくる。先程の悲鳴を聞いて二人共動揺している。
「猛と恭一は楓を頼む!僕は様子を見てくる!」
言うやいなや、三人を残し下履きを履いたまま、悲鳴が聞こえた方へ走っていく。
「まっ、まって! 界徒君!!」
「バカッ!!ドコ行く気だっ!?」
「戻れっ! 星神っ!!」
いきなり校舎内へ走り出した界徒に面喰いながらも、三人ともすかさず後を追うように走っていく。
悲鳴が聞こえた方に走っていくと、数名の生徒が座り込んでいた。
生徒全員の顔は、驚きと恐怖で満ちている。
界徒は近くにいた生徒の肩をつかみ、何があったのか問いかける。
「おい大丈夫かっ!? いったい何がおきたんだ!?」
「わっ、分からないっ!! 突然人が消えたんだっ!!」
「人が消えた!?」
界徒は一瞬、自分がなんて答えられたのか、理解できなかった。
問いかけた生徒は軽く錯乱しており、本当のことを言っているのかも怪しい。
だが、先程此処で何かあったのは間違いないようである。そうでなければ、普通はここまで怯えはしないだろう。
「おい界徒っ!! 無事かっ!?」
「一人で行くなんて何を考えてるっ!?」
「界徒君大丈夫っ!?」
猛・恭一・楓の三人が息を切らせながら遅れて到着する。
「僕なら大丈夫」
「よ、よかった~。界徒君心配させないでよっ!」
「いきなり一人でつっ走るなよ。びっくりするだろっ!?」
「無事で何よりだが、一体何があったんだ?」
「僕も良く分からない。何でも人が突然消えたらしいんだ」
界徒が無事なことに三人とも安堵するが、返ってきた言葉により動揺することになる。
「人が突然消えただっ!? そんなバカなことがっ・・・」
「僕だって信じられないよっ! ただ此処で何かがあったことは間違いないっ!」
「にわかには信じられないが、星神の言う通りならこの場からすぐに離れ・・・」
恭一がこの場から離れることを言おうとした瞬間・・・
―ドクンッ!!―
先程と同じ奇妙な感覚が襲う。しかも先程より強い。
(またっ!?)
「ぐうっ!?」
「何だ? 今の感覚は!?」
「・・・何? すごく気持ち悪い・・・」
猛達三人も、界徒と同じ感覚を感じたのか、揃って青い顔をしている。
「皆も感じたの?全身が締め付けられるような感覚を?」
「界徒もか?」
周りを見ると周囲にいた生徒達も感じたのか、顔色が悪い。
(あの感覚を感じる人が増えてる!?まさか規模が大きくなっ・・・)
「うわあああああああぁぁぁぁぁっっ!!!」
「先輩がっ! 先輩が消えたあぁぁっ!!?」
新しい悲鳴が別の場所から校舎内にこだます。悲鳴から察するに、また人が消えたようだ。今度は上の階で起きたらしい。
「早く校舎から出よう! ここは危険だ! 皆早くっ!!」
界徒の声に猛達三人と、呆けていた他の生徒が一斉に外に向かって走り出す。
他の場所にいた生徒達も外へ逃げようと出口に殺到する。校舎内はパニック状態だ。
出口に近づき、もう少しで校舎の外に出られる、そう思った瞬間。
今度は校舎の床全体が、突然輝きだした。
輝きはどんどん強くなっていき、先の二回以上の感覚が彼らを襲う。
(これはっ・・・! 本当にっ・・・!?)
目が眩むほどの黄金の光に包まれ、体を吹き飛ばされるような感覚を受ける。
次の瞬間には、体を圧迫していた消え、瞼越しにも光が弱まっていくのを感じる。
界徒は、恐る恐る目を開ける。その目に映った景色は見慣れた校舎内ではなく、
―見渡す限りの荒れた赤茶色の大地―
「此処は・・・ 何処・・・?」
焼きつくような強い日差しが射す荒野で、界徒は一人で立ち尽くしていた。
―昨日もこれまでと同じ、穏やかで平和な一日を迎えてきた―
―だから明日も、明後日も、これからもずっと―
―退屈だけども平穏な日々が、昨日までと同じように続いていくのだと思っていた―
―だけどそれは今日、突然崩れたー