第三話~勇者の口癖『人だけにな!』
チュンチュン。と、朝日の知らせをしてくれる小鳥たちのさえずりが聞こえた。
「あーよく寝た・・・!?」
「おはようございます」
天井に引っ付いている目や鼻などが無い人が勇者を見下ろしている。
しかもその人には耳と尻尾がある。
俺は見下ろされるのが一番嫌いなんだと少しばかり心の中でつぶやいてみる。すると引っ付いている生き物が恐る恐る無い口を開いた。
「わたくしの名前は申すほどでは無いのですが・・・ヴェルディ・アミーゴ・プリゼンティング・カバオ・ジョセフィーヌ120世と申します」
「申すんかい!!」
「ただの人間にわたくしの名前を間違えられるというのは片腹痛いので」
口が無いのにも関わらず、くもった声のしない生き物。勇者はまくらを投げつけてみた。
華麗によけるではなく、顔面に上手に受け止めて見せてくれたのだ。
「ブフェ!!なにをするのですか!?この人間ごときが!!わたくしの偉大さが分からないのですか!?それに、魔王様が全ての指を犠牲にしてまでつけてくださった腕が取れたじゃないですか!」
腕の取れた姿に勇者は見覚えがあった。
「まさかお前はあの時の人形か!?」
「お前じゃありません!わたくしの崇高すべき名前はヴェルディ・アミーゴ・プリゼンティング・カバオ・ジョセフィーヌ120世です」
片腕をもち詰め寄ってくる人形だったもの。勇者は顔のパーツが無いのに何故かやつの表情が分かることにイライラしていた。きっとヴェルディ・アミーゴ・プリゼンティング・カバオ・ジョセフィーヌ120世の表情は、勇者を鼻で笑っているのだ。
「ヴェルディ・アミーゴ・プリゼンティング・カバオ・ジョセフィーヌ120せい!ゆうしゃはまだおきないの?」
ノックもなしに、問答無用と扉を押して開けてきたのはあの幼い魔王だった。
さらに勇者は寝るとき上は着て眠らない。それが勇者のポリシーとなっていた。だから、魔王はノックもせずに入ったために、勇者の上半身裸を見ることになってしまった。
「へ、へんたい!!わたしにはだかをみせるなんて、わたしをおよめにいかせないきですか!!」
「勝手に入って、勝手に俺の裸を見たのはそっちだろうが!!」
上半身裸のまま抗議をする勇者に魔王は赤らめた顔でなにか怪しい呪文を唱え始めた。
「魔王様!その呪文はあの一国を沈めたという禁断の術!」
「ちょ!それだったら、ここも危ないんじゃ!?」
「危ないですよ!あなた勇者なんでしょ!?だったら、どうにかしてください!!」
魔王の周りには赤色や紫色の風が渦巻いていた。
ヴェルディ・アミーゴ・プリゼンティング・カバオ・ジョセフィーヌ120世は先ほどまで人をばかにしていたのにもかかわらず、勇者にすがりついていた。
「ヴェルディなんちゃら、ひっつくな。そして、目がないくせに涙が出てるのがなんでだ!?」
さすがの完全無欠な勇者でさえこの顔なしの名前は覚えれないらしい。顔なしの目のあたりなのかそこからちょろちょろ何かが垂れている。
「毛穴から分泌されているのです!さっさと魔王様のあの恐ろしい禁断の術を止めてください!」
そこまで顔なしに懇願されるとやらないといけないな、と感じた勇者。やらないと自分の命まで無くす勢いぽいのでとりあえず、布団を投げつけてみた。
ばさぁと魔王に見事にかかり、風が布団の中で渦巻いている。だが、それは布団の中だけなので、布団の外では元の静けさを保ち始めた。
「一応礼を言いますが、次はわたくしの力でどうにかします!」
「・・・次起きないようにしろよ」
顔なしに指でさされながら脱力をした勇者は、布団のそばまで近づいた。
布団はなにか怪しい動きをしていた。それは、子供が白い布をかぶり『おばけだぞー』と驚かしている姿とかぶる。だが、そこまで可愛らしいものではない、お化けの手足みたいなのが連打レベルで突き出してくるのだ。
勇者はすぐにとりゃっと布団をはぐと、魔王が目に涙をためながら現れた。
「うぇーん!ゆうしゃのバカ!わたしはくらいのだめなの!こわかったんだからうちくび!!」
「ふざけんな!そんなんで打ち首にされてたまるか!」
「魔王様に意見をするとは何様ですか!!」
ずかずかと近寄ってくる顔なしにひきながら勇者は、上着を探し始めた。
また魔王が変な呪文を唱えられたら堪ったもんではないからだ。
「あ!ヴェルディ・アミーゴ・プリゼンティング・オバカ・ジョセフィーヌ120しぇいのうでがとれてる!わたしがまたなおすね!!ん?・・・ゆうしゃがいるんだから、ゆうしゃにやってもらおう!」
これはいい考えだと魔王はわたくしの名前を噛んでいる魔王様、万歳!と悦に入っている顔なしを見上げ、同意を求めていた。勇者はそれを聞き、上着を片手にすごくいやな顔をしていた。別に裁縫ができないわけではない。村娘である幼馴染よりかははるかに綺麗に仕上げることができていたから。ただ勇者はこの顔なしには起きてから殺意しか芽生えていない。
「いやです!わたくしはただの人間に触られるなんて!!」
「俺だって得体の知れないやつを救ったって何にもならねぇよ!」
「そんな・・・ゆうしゃはりえきをかんがえないで、ひとたすけをするって・・・」
「ああ!人だけにな!」
勇者は昨日の出会ったときから言っている台詞をまた魔王にはいた。
この台詞は勇者の口癖になってしまう勢いだ。