第二話~ママな勇者は疲れぎみ?
勇者の目の前で倒れた魔王。
勇者が連れてこられた部屋は、ピンクを基調とした壁紙や置物。ヌイグルミやらが転がっている子どもの片付けられていない部屋だった。
「え!?これってチャンス!?3代目魔王を倒すチャンス到来か!…でもなー小さい子を殺すのはなー」
スヤスヤと寝息をたてながら寝ている魔王を見て思わず布を探して風邪をひかないように掛けようと思ってしまった。
「いやいや!相手は魔王だ!!勇者は魔王を倒し人々に平穏を与えるためにいるんだから、魔王が風邪をひかないか心配するなよ、自分!!」
自分を叱咤する勇者の声がでかかったらしく、魔王から可愛らしいうなり声が聞こえた。
「ふはー。やっぱりテレポートはつかれる…あ!ゆうしゃ…かくごっ!!」
勢いよく立ち上がり、いざ挑まん!!とばかりにダッシュをしてみせる魔王。
その時、ずべしという音とともに勇者の視界から魔王が消えた。
「いったぁぁああ!!って…!?わたしの、ヴェルディ・アミーゴ・プリゼンティング・カバオ・ジョセフィーヌ120せいが!!」
彼女の足元には右手がちぎれた顔が縫われていない犬のヌイグルミがあった。このヌイグルミにはただならぬ秘密が隠されている。
「ながっ!!名前ながっ!!しかも120世とかどれだけ世代交代してるんだよ!?」
「ぐす。ごめんね、ヴェルディ・アミーゴ・プリゼンティング・カバオ120せい…まちがえた、ヴェルディ・アミーゴ・プリゼンティング・カバオ・ジョセフィーヌ120しぇい…いえないよ」
「だったら短くしたらいいだろ!?」
少し間を開けて両手をぽんと叩いた。
「おお!ゆうしゃはあたまいいんだ!パパうえにほうこくしなければ!」
「いやいや、普通はすぐに思い付くだろ!!馬鹿なのか!?魔王は本当は馬鹿なのか!?」
どこからかノートとペンをとりだし書き始めた。
「ゆうしゃはあたまがよくて…まおうはばかっと…あれ?わたしばかなの!?」
マイペースな魔王に振り回され続けたのでお疲れぎみな勇者は、なげやりな気持ちになっていた。
「そうじゃないのか?俺もう帰っていいか?」
「それはだめ!めっなの!ゆうしゃはまおうのねがいをかなえるまでかえったらだめ!」
地団駄を踏み勇者を困らせる魔王。その図は、親におもちゃを買ってもらえれない子どもの様子のようだった。
「なんだよ、その願いって」
その駄々っ子をあやすのは勇者というより母親のほうがしっくりくる。
「えっとね、せかいせいふく!」
勇者は思わずこけてしまうところだったが、踏みとどまった。
「叶えれないから!勇者は世界征服をするやつらを阻止する役目なんだからな!?」
「ちがうよ!ゆしゃをそばにおいてたらねがいがかなうんだよ!」
魔王の素晴らしい勘違いはどこから仕入れいるのかが勇者は心当たりがあった。
「また魔王の日記か!?」
「うん!パパうえのにっき!!」
「読ませろ」
実は本の中身が気になってしょうがない勇者だった。
「よんだらかんそうをさくぶんようし15まいいじょうで、げんごはこだいインバルティンごでかかないとだめだよ。かかなかったらパパうえにのろいころされるよ!」
「嘘だろ!?」
あの変なことを書いてある日記を書いたという魔王による呪いというのは本当なのか、嘘なのかが判断できない。これは嘘つきサーカスのピエロと話した時以上に難しいのかも知れない。
「うそじゃないもん!!」
「そういうことにしておくよ。で、帰っていいか?」
自分からふっといてなんだが、勇者はとてつもなく面倒くさくなっていた。
「だめ!せかいせいふくができるまでここにすむの!!」
「はあ!?俺を殺すんじゃないのか!?」
勇者の疑問の意味がわからない魔王は大きな目パチパチさせていた。ついでに言うと、魔王の目の色は黒だ。
「なんで?なんで、ころさないといけないの?」
「魔王と勇者は敵対関係だろ!?ふつうは?」
「ゆうしゃはこまったひとをてだすけをするんでしょ?」
「人限定でな」
勇者と言えども、人以外の者まで助ける義理はないと思っている。
「だからねがいをかなえてもらうんだ!」
完全に人の事を聞いていない魔王に、勇者は脱力していた。
まだまだこれからが勇者にとっての大きな試練が待っていた。