第6話:牙を剥く現代社会 ―暴力と論理―
前話では、世界的な歌姫ステラを味方につけ、絶体絶命のランウェイを大成功に導いたゼノス。
アパレル業界に革命を起こした彼の名は、いまや「伝説のコンサルタント」として経済界を震撼させています。
しかし、あまりに急激な変革は、既存の利権にすがる者たちの憎悪を呼び起こしました。
今回は、これまでの「知力戦」とは一変し、現代社会の「闇」が牙を剥きます。
西園寺グループの騒動から数日。
ゼノスが拠点とする雑居ビルの一室――『アルトワイル事務所』の周辺は、不気味なほどの静寂に包まれていた。
「ゼノスさーん! 見てくださいこれ! 昨日のランウェイの動画、再生数が一億回を超えましたよ! もう、うちの事務所への問い合わせ電話が鳴り止まなくて……」
一ノ瀬凛が、スマートフォンの画面を嬉しそうに掲げて事務所へ戻ってくるはずだった。
だが、夕暮れの路地裏に響いたのは、凛の短い悲鳴と、荒々しい車の急ブレーキ音だった。
「……一ノ瀬?」
事務所の窓から下を見下ろしたゼノスの瞳が、鋭く細められる。
そこには、黒塗りのワンボックスカーに強引に押し込まれる凛の姿と、路上に転がった彼女のスマートフォンがあった。
ゼノスの脳内に、前世――魔導帝国の宰相として、数多の刺客を退けてきた軍師としての直感が警鐘を鳴らす。
「法と論理で勝てぬと悟り、次は物理的な破壊か。……現代の人間も、やることは変わらんな」
ゼノスは古びた万年筆を懐に収めると、一切の迷いなく事務所を飛び出した。
彼が向かったのは、凛が連れ去られた方向ではない。逆方向の、人通りのない廃ビルだった。
「――そこだ。追跡の術式、起動」
ゼノスが路上に残された「凛の残留思念」を指先でなぞると、虚空に淡く光る青いラインが浮かび上がった。それは犯人の車両が辿った軌跡を、逃さず映し出している。
辿り着いたのは、港湾地区にある寂れた倉庫だった。
中からは、下卑た男たちの笑い声と、口を封じられた凛の、鼻をすするような泣き声が聞こえてくる。
「……へへ、この女を餌にすれば、あの生意気なコンサル野郎も面を出すだろ」
「郷田の旦那からもたっぷり礼金が出る。じっくり可愛がってやろうぜ」
鉄扉を蹴破り、ゼノスが静かに足を踏み入れた。
そこには十数人の屈強な男たちと、椅子に縛り付けられた凛がいた。
「ゼ、ゼノスさん……っ! 逃げて……こいつら、危ない……!」
凛が涙目で叫ぶ。
「逃げる? ……なぜ私が、塵を前にして背を向けねばならん」
ゼノスの冷徹な声に、男たちが一斉に金属バットやナイフを手にする。
「あぁ? テメェが噂のゼノスか。ひょろひょろのインテリが一人で何ができる。……死ねよ!」
先頭の男がナイフを振り下ろす。
だが、その刃がゼノスの喉元に届くことはなかった。
「――【重力偏極】」
ゼノスが低く呟いた瞬間、倉庫内の重力が十倍に跳ね上がった。
「ぎゃああああっ!?」
「な、なんだ……体が、動かねぇ……っ!」
男たちは、まるで見えない巨人に押し潰されたかのように、冷たいコンクリートの床に叩きつけられた。バキバキと、不気味な骨の軋む音が響く。
ゼノスは悲鳴を上げる男たちを冷ややかに見下ろしながら、ゆっくりと凛の元へ歩み寄る。
「一ノ瀬。言ったはずだ。私のやり方は荒い、と」
彼は指先一つで凛の縄を焼き切り、震える彼女の肩に自分のコートをかけた。
「経営とは、秩序を保つことだ。……秩序を乱す害虫には、対話ではなく、駆除が必要になる」
ゼノスの瞳は、かつて数万の敵軍を焼き払った時と同じ、冷酷な黄金色に染まっていた。
現代社会のルールを超えた「暴力の頂点」を目の当たりにし、凛は恐怖ではなく、底知れぬ安堵感に包まれて気を失った。
崩れ落ちる男たちの中に、一人だけ立ち尽くす影があった。
闇の中から現れたのは、高性能な防護服を纏い、奇妙なバイザーを装着した男――九条蓮が雇った「対・超常現象専門の傭兵」だった。
「……なるほど。それが君の『魔法』の正体か、ゼノス。……データの収集は完了した」
闇の中で、九条の冷たい笑い声が無線越しに響く。
ゼノスの「異能」が、ついに科学のメスで解剖されようとしていた。
第6話をお読みいただきありがとうございます!
これまでの知的な頭脳戦から一転、ゼノスの「武の力」が垣間見えた回でした。
凛を救い出したゼノスですが、九条はただ指をくわえて見ていたわけではありません。
現代の最新技術を駆使して、ゼノスの「魔法」を攻略しようとする九条の影……。
**「ゼノス様の重力魔法、スカッとした!」「凛ちゃん、無事でよかった……」**と思った方は、ぜひ
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ゼノスの正体が少しずつ解析されていく、第1章クライマックスへのカウントダウンが始まります!
次回予告
凛を救ったゼノスの前に立ちはだかるのは、現代科学の粋を集めた「魔導無効化」の壁。
論理と魔法、そして科学が激突する中、ゼノスが放つ次の一手とは?
第7話:『鉄の論理、銀の魔弾』




