第3話:令嬢の依頼と、見えない毒
第2話では、ゼノスの「異次元の渋滞回避」によって日向運送が奇跡の再建を遂げました。
無能な契約社員だと思われていたゼノスの正体に、周囲がざわつき始めます。
今回は、新たな依頼人と、現代アパレル業界の闇に切り込みます。
「――日向運送の奇跡。あれを仕組んだのは、あなたね?」
ファームの給湯室。安物のインスタントコーヒーを啜っていたゼノスの背後に、場違いなほど高貴な香水の香りが漂った。
振り返ると、そこには見事な縦ロールの髪を揺らし、仕立てのいいスーツに身を包んだ美女が立っていた。
一ノ瀬凛が「ひえっ……」と声を漏らし、直立不動になる。
「……西園寺エリカ様!? なんでうちのファームに、西園寺グループの令嬢が!?」
西園寺エリカ。
日本屈指の巨大財閥の末娘であり、弱冠二十歳にしてアパレルブランド『ルミナス・モード』の社長を務める天才経営者だ。
だが、ゼノスは眉一つ動かさず、コーヒーのカップを置いた。
「依頼なら受付を通せ。私は今、休憩中だ」
「不敵な男ね。……いいわ。単刀直入に言う。私のブランドが、死にかけているの。原因を突き止め、一ヶ月以内に黒字化しなさい。報酬は、あなたの望むままに」
エリカが突き出したタブレットには、一見好調に見える売上グラフが表示されていた。
だが、ゼノスが目を細めると、その数字の羅列から**「どす黒いマナ」**が立ち昇っているのが見えた。
「一ノ瀬。このグラフから何を感じる」
「えっ? えーと……売上は右肩上がりだし、SNSのインプレッションも過去最高です。完璧に見えますけど……」
「……違うな。これは『呪い』だ」
ゼノスが吐き捨てると、エリカの顔がわずかに強張った。
「呪い……? 何を非科学的なことを」
「お前のブランドは、流行を追いすぎて、服そのものの魂を削っている。……いや、正確には何者かが、お前の会社の物流網と在庫管理システムに、数字を喰らう『寄生虫』を放っているな」
ゼノスは、エリカが持参した在庫リストの一部を指差した。
一見、誤差の範囲に見えるわずかな「返品率の上昇」と「配送遅延」。
だが、ゼノスの『魔導幾何学』で計算すれば、それは会社の資金をじわじわと吸い上げ、別の場所へと送金するための精巧な**【魔導回路】**だった。
「……気づいたのは、あなたが初めてよ」
エリカは、震える声でそう漏らした。
「役員たちは皆、『誤差だ』と笑う。でも、私は感じていたの。何かが、私の会社を中から食い荒らしていることを」
「いいだろう。その依頼、引き受ける。……ただし、私のやり方は荒いぞ。お前の大事な『プライド』という術式を、一度完全に破壊することになるがな」
ゼノスが不敵に微笑むと同時に、給湯室のドアが激しく開いた。
そこに立っていたのは、包帯を巻いた手でタブレットを握りしめた九条蓮だった。
「待て! 西園寺様、その男に騙されてはいけません! 彼はオカルトを語る詐欺師だ! その案件、私に……この九条に再起のチャンスを!」
九条の瞳には、かつてのエリートの余裕はなく、ゼノスへの凄まじい憎悪と執着が宿っていた。
「……またお前か、九条。敗北を知らぬ者ほど、死に際は醜いな」
ゼノスの静かな宣告に、九条の顔が屈辱で歪む。
華やかなアパレル業界を舞台に、異世界の賢者と、復讐に燃えるエリートの第二ラウンドが幕を開けようとしていた。
第3話をお読みいただきありがとうございます!
新キャラ、西園寺エリカが登場しました。典型的な勝ち気なお嬢様ですが、彼女もまた孤独な戦いの中にいます。
ゼノスが指摘した「数字の寄生虫」の正体とは?
そして、敗北した九条がどう動くのか……。
続きが楽しみな方は、ぜひ
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次回予告
ゼノスはアパレルの在庫倉庫に乗り込み、驚愕の「物理的ハック」を敢行する。
現代の流行を、異世界の「魅了魔法」で塗り替える……!?
第4話:『トレンドは私が作る ―魔導倉庫の怪―』




