表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/29

第24話:聖域の審判 ―愛という名の非論理的投資―

ニューヨークを奪還し、神々の「独占禁止法」を打ち破ったゼノス。

しかし、天上の理事会は次なる一手として、欧州全土を巨大な「断罪の法廷」へと変貌させました。

人々の脳内に直接響く「罪の告白」。過去の過ちをポイント化し、一定の負債を超えた者を消去する残酷なシステム。

その設計者は、前世のゼノスに魔導幾何学の基礎を教え、最も信頼し、そして死の間際に背中を向けた師――【知】のソフィアでした。

「論理こそが正義」と説いた師が、今、ゼノスの「情」を試しに来ます。

…パリの凱旋門が、巨大な「天秤」の支柱へと姿を変えていた。

 空に浮かぶのは、欧州数億人の実名を記した「罪状リスト」。

「……嘘。私の子供の頃の嘘まで、全部書き出されてる……」

 凛が、空を見上げて震える。リストには、誰にも言えなかった小さな悪意や、身勝手な欲望が、すべて「負債」として数値化されていた。

「――お久しぶりですね、ゼノス。私の教え通り、効率的な世界を創っているようですが……少し、雑味が混ざっているようです」

 空からゆっくりと降りてきたのは、巨大な書物を抱えた、怜悧な美貌を持つ女性。

 八部衆の長ですら跪く、天上の理事会・最高幹部、ソフィア。

 彼女が書物を開くと、ゼノスの周囲に「前世の罪」が黒い鎖となって現れた。

「ソフィア……。お前がこのシステムの設計者か。……人の心を数値化し、管理するなど、相変わらず悪趣味な計算式だな」

「悪趣味? いいえ、これは究極の『コストカット』です。罪深き人間を間引けば、世界はより美しく、低コストで運営できる。……ゼノス、君なら理解できるはずだ。無駄な感情に投資する価値などないと」

 ソフィアが指を弾くと、凛の頭上に「消去デフォルト」の宣告が下った。

 凛が過去に抱いた、ほんの些細な「嫉妬」や「弱音」が、神の基準では「致命的な欠陥」と見なされたのだ。

「待て……! 一ノ瀬の何が欠陥だと言うんだ! 彼女の存在が、どれだけこの世界を明るくしているか、お前の数式には入っていないのか!?」

 九条蓮が、叫びながらソフィアの結界を叩く。

「……九条、下がれ」

 ゼノスが静かに前に出た。

 彼の背負う黒い鎖――かつて戦場で奪った数多の命の重みが、彼を地面に縛り付けようとする。

「ソフィア。お前の言う通り、論理的に考えれば、人間は負債の塊だ。……だが、お前は経営の真理を見落としている」

「……何ですって?」

「――【愛】という名の投資だ」

 ゼノスが、自らの心臓を万年筆で突くように構えた。

 

「愛は、原価を無視し、回収の保証もない、究極の『非論理的投資』だ。……だが、そのたった一度の投資が、一億の論理を凌駕する『奇跡的な利回り』を生むことがある」

 ゼノスの胸から、黄金でも白銀でもない、温かな「あか」の光が溢れ出した。

 それは、凛がくれた不器用なおにぎりの温もり、九条と交わした信頼、そして名もなき民衆から受け取った感謝。

 

「ソフィア。私は一ノ瀬凛の全負債を……私が『連帯保証』として引き受ける。」

「……!? 正気ですか、ゼノス。彼女の罪だけでなく、九龍、ニューヨーク……世界中の人間の罪を背負えば、あなたの魂は瞬時に破産して消滅するのですよ!」

「破産? ……いいや、これは『事業統合(合併)』だ」

 ゼノスが両手を広げると、空の罪状リストが、次々とゼノスの体に吸い込まれていく。

 数億人分の「悲しみ」と「弱さ」を、彼は自らの魔導演算で強引に引き受け、それを一つの巨大な「巨大企業エンティティ」として再定義した。

「――【次元連結・全人類救済合併グローバル・マージャー】!!」

 ゼノスの体から放たれた紅い光が、凱旋門の天秤を物理的に粉砕した。

 ソフィアの書物は燃え上がり、神が定義した「罪」という概念が、ゼノスの圧倒的な「愛という名の資本」によって上書きされていく。

「……あ、ああ……。私の論理が……『愛』という計算不能なノイズで、壊されていく……」

 ソフィアが膝をつき、呆然と空を見上げた。

「ソフィア。……お前の数式には、温もりが足りなかった。……計算できないものを排除するのではなく、受け入れて運用する。それが、今の私の『経営』だ」

 ゼノスは、震える手で凛の肩を抱き寄せた。

 

「……ゼノスさん。……ありがとう。……でも、大丈夫なんですか? こんなにたくさんの重荷を背負って……」

「……少し、肩が凝るな。……だが、悪くない投資だ」

 ゼノスは微笑んだ。だが、その瞳の奥には、全人類の負債を引き受けたことによる、極限の疲弊が隠しきれずにいた。

 空の向こう。

 天上の理事会の「会長」――すなわち、前世でゼノスを殺させた真の黒幕が、ついに腰を上げた。

第24話をお読みいただきありがとうございます!

「論理」の化身だったゼノスが、かつての師に対し「愛」という名の非論理的投資で挑む。彼の人間としての成長が、ついに神の理を打ち破りました。

しかし、世界中の負債を引き受けたゼノスの負担は計り知れません。

「ゼノスの連帯保証、かっこよすぎて泣いた」「愛を投資と呼ぶセンスが最高」

と思ってくださった方は、ぜひ

・ブックマーク登録

・下の【☆☆☆☆☆】評価

をお願いいたします!

第3章、いよいよ物語は最終決戦へと加速します。

次回予告

全人類の罪を背負い、限界を迎えるゼノスの魂。

天上の理事会・会長が放つ「究極の清算ファイナル・リクイデーション」。

崩壊する世界の中心で、ゼノスは凛と九条に、最後の「遺産分配」を行う。

「これが、私がお前たちに残せる、最高の資産だ」

第25話:『世界の最終決算 ―軍師、神を買い叩く―』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ