第22話:聖域の不良債権 ―奇跡の安売りは認めない―
執行者を一退させたゼノスの前に現れたのは、黄金の光を背負った中性的な容貌の監査役。
神の領域で「奇跡」を管理する彼らは、人類が積み上げた科学も魔導も、すべて「許可なき改竄」として無効化します。
しかし、帰還したゼノスの瞳には、神の奇跡さえも「高コストなエネルギーの無駄遣い」として映っていました。
聖域という名の不良債権。ゼノスは、神々の贅沢な運営体制にメスを入れます。
「――悲しいね、ゼノス。君の知略は、まだこの地上というちっぽけな市場に縛られている」
九龍の空。砕け散った執行者の残骸の中から、一人の男がゆっくりと浮上した。
純白の法衣を纏い、背後に展開された円環状の演算回路が、周囲の音を「無」へと書き換えていく。
天上の監査役、エゼキエル。
かつて、前世のゼノスに「神の知恵(幾何学)」を与え、そして彼が「完璧になりすぎた」という理由で、主君に処刑を唆した張本人。
「……エゼキエル。久しぶりだな。天上の暮らしは快適か? それとも、下界の『利益』を吸い上げなければ維持できないほど、困窮しているのか?」
ゼノスは、凛と九条を背後に隠し、白銀の万年筆を軽く回した。
「困窮? 笑わせないでくれ。私たちは『無限』を所有している。……例えば、これだ」
エゼキエルが指を鳴らす。
その瞬間、九龍の街に「死」が消えた。
瓦礫に挟まれ、今まさに命を落とそうとしていた老人が、瞬時に無傷へと戻る。不治の病に伏せていた子供が、跳ねるように起き上がる。
一見、それは救いの光に見えた。
「これが『奇跡』だ。対価も努力も必要ない。神が与える、究極の無料配布だよ。……これに勝てる『経営』が、君にあるかな?」
「……っ、そんな……! どんなに頑張っても、こんな力には勝てない……!」
凛が、目の前の光景に圧倒されて立ち尽くす。
だが、ゼノスは鼻で笑った。
「――愚かな。……エゼキエル、お前は経営の初歩を忘れたのか? 『無料』ほど、高くつくものはない」
ゼノスが万年筆を空中に走らせる。
すると、救われたはずの人々の体が、薄紫色の「霧」を放ち始めた。
「九条! 奴が撒き散らした『奇跡』のエネルギー効率を計算しろ!」
「……! なんだこれ!? 回復したエネルギーの数百倍の『寿命(可能性)』が、強制的に天上に吸い上げられている……! これ、治療じゃない……『将来価値の先食い』だ!」
「その通りだ。……エゼキエル。お前が行っているのは救済ではない。極めて悪質な『高利貸し』だ。一時の奇跡を与える代わりに、人類が未来に生み出すはずのエネルギーを、利息として一括徴収しているに過ぎん」
ゼノスの宣告と共に、九龍の空に巨大な「請求書」が投影された。
神の奇跡にかかった「原価」と、それによって奪われた「人類の未来価値」。
その莫大な赤字が、真っ赤な数字となって神々の権威を汚していく。
「――【次元連結・不良債権処理】!!」
ゼノスが万年筆をエゼキエルに向けて突き出す。
すると、人々から吸い上げられていた紫の霧が逆流し、エゼキエルの背後の演算回路を侵食し始めた。
「なっ……何をした!? 神の奇跡が、不浄なノイズで汚染されていく……!」
「私はただ、お前が隠蔽していた『運営コスト』を、お前自身の口座に請求しただけだ。……奇跡はタダではない。そのツケは、今ここでお前が払え」
ドォォォォォォォォン!!
エゼキエルの背後の光輪が、膨大な「赤字(負債)」の圧力に耐えきれず爆発した。
神の監査役が、自らの贅沢なエネルギー消費に押し潰され、地上へと墜落していく。
「……奇跡の安売りは、市場を壊す。……神であっても、独占禁止法からは逃れられんぞ」
ゼノスは、冷めた表情で万年筆を懐に収めた。
だが、これは序の口に過ぎない。
エゼキエルの背後には、まだ七人の監査役――『天上の理事会』の全容が隠されていた。
第22話をお読みいただきありがとうございます!
神の「奇跡」を、将来価値の搾取(高利貸し)として断罪する。ゼノスならではの冷徹なロジックが炸裂しました。
どれほど神々しい力であっても、そこに「不当なコスト」があれば、ゼノスは容赦なくメスを入れます。
「神を相手にインボイスを突きつける発想が天才!」「ゼノスの冷静さが頼もしすぎる」
と思ってくださった方は、ぜひ
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第3章、戦いの舞台は世界各地の「聖域」へと広がります。
次回予告
世界各地のパワースポットが、神々の「エネルギー採掘基地」として覚醒する。
第一の標的は、かつての経済の要・ニューヨーク。
摩天楼を巨大な「神のアンテナ」に変えようとする監査役に対し、ゼノスは一ノ瀬凛を『現地法人の代表』として送り込む。
「凛。……お前の『想い』を、この市場の基軸通貨にしろ」
第23話:『摩天楼の略奪者 ―自由の女神を買い戻せ―』




