表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/29

第17話:断罪の夜明け ―さよなら、愛した王よ―

かつての主君と同じ顔、同じ声を持つ男、アルヴァ。

彼は九龍の全住民の「幸福」を担保に、世界を意のままに書き換える究極の通貨を発行しようとします。

ゼノスの脳裏に蘇る、前世での処刑の間際の記憶。

「君に居場所はない」――その呪いの言葉を打ち砕くのは、今、隣に立つ凛と九条の声でした。

三人の魂が重なる時、魔都の空に偽りの黄金ではない、真実の夜明けが訪れます。

「――馬鹿な。……想いという不確定要素が、私の完璧な経済を拒絶するだと……!?」

 アルヴァの端正な顔が、初めて驚愕に歪んだ。

 彼が放つ黄金の雨――人々の意志を奪う「幸福の徴収」が、ゼノスたち三人を包む白銀の光に触れた瞬間、パチパチと音を立てて霧散していく。

「アルヴァ。お前は変わらないな。……民の幸せを願うと言いながら、その実、お前が愛しているのは『自分が管理する完璧な箱庭』だけだ」

 ゼノスは、凛と九条の肩に置いた手に、ぐっと力を込めた。

 二人の体温が、掌を通して伝わってくる。前世の彼が、鉄の規律と数字の壁で決して触れさせなかった「他者の熱」だ。

「……ゼノスさん。私、難しいことは分かりません。でも、誰かの幸せを勝手に数字にして、勝手に奪い取るなんて……そんなの、絶対に間違ってます!」

 凛が、涙を浮かべながらもアルヴァを真っ向から睨みつける。

「そうだ。……アルヴァ、君のシステムは美しい。だが、そこには『想定外の成長』という余地がない。……僕が、この最下層のゴミ溜めから、君のような神を否定する存在にまでなれたのは、ゼノスという不確定要素に出会ったからだ!」

 九条蓮が、血の混じった唾を吐き捨て、不敵に笑った。

「……不確定要素。……ああ、そうだね。計算できないものは、排除するしかない」

 アルヴァの瞳から光が消え、深淵のような黒に染まる。

 黄金のドームが激しく鳴動し、九龍の全エネルギーが彼の背後に収束していく。

 

「――【終焉均衡・九龍消滅ラスト・デフォルト】!!」

 九龍という街そのものを「倒産」させ、その余波で発生する膨大な負のエネルギーで、半径数百キロを消滅させる自爆術式。

 アルヴァは、自分が支配できない世界なら、いっそ無に帰そうというのだ。

「逃げて、ゼノス! この出力は、もう……個人の魔導でどうにかできるレベルじゃない!」

 九条が絶叫する。

 だが、ゼノスは動かなかった。

 彼は懐から、ボロボロになった一冊の手帳を取り出した。それは、一ノ瀬凛が第1章で彼にプレゼントした、現代の事務用品店で買った安物の手帳だ。

「……一ノ瀬。九条。……お前たちに出会って、私はようやく理解した。……軍師の仕事とは、勝つことではない。……『生き残る価値のある未来』を創ることだ」

 ゼノスが手帳を空中に放り投げる。

 その紙片が、一枚ずつ剥がれ落ち、白銀の蝶のように舞い上がった。

「――【次元連結・未来への投資ライフ・キャピタル】!!」

 ゼノスが全魔力を解き放つ。

 それは攻撃でも、防御でもない。

 アルヴァが引き起こそうとしている「破壊のエネルギー」を、九龍の全住民が持つ「明日への希望」という名の債権へと、一瞬で書き換える術式。

 ――ズ、ズズズズズズッ!!

 ドームが、九龍が、激しい光に包まれる。

 アルヴァの放った黒い絶望の渦が、住民たちの「明日も生きたい」という何千万もの細かな光に細分化され、吸収されていく。

「……あ、ああ……。光が……私の闇が、白く塗り潰されていく……」

 アルヴァが、空中で膝をついた。

 彼の玉座が砕け、黄金の衣がボロボロに裂けていく。

 光の渦の中で、ゼノスとアルヴァの視線が交差した。

 そこにはもう、憎しみも、裏切りの痛みもなかった。

「……さよなら、アルヴァ。……お前が愛した王国の代わりに、私はこの歪な、だが愛おしい混沌(世界)を守ることに決めた」

「……そうか。……君は、ようやく……一人になれたんだね。……おめでとう、ゼノス」

 アルヴァが、最期に前世と同じ、悲しげで、どこか救われたような微笑みを浮かべた。

 次の瞬間、黄金のドームは音を立てて崩壊し、アルヴァの姿は光の粒子となって雲海へと消えていった。

 静寂が、九龍の頂上を包み込む。

 夜が明け始めていた。

 雲海の端から、本物の、偽りではない太陽の光が差し込んでくる。

「……終わったんですね」

 凛が、ゼノスの隣でそっと呟いた。

「ああ。……九龍の支配構造は、今この瞬間、完全に解体された」

 ゼノスは、空になった手帳の表紙を見つめ、少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「ゼノス。……これからは、どうするんだ? 世界中の投資家が、君の首を狙うか、あるいは跪きに来る。……もう、静かな生活は望めないぞ」

 九条が、ボロボロの体で立ち上がり、問いかける。

 ゼノスは、昇りゆく太陽に向かって、大きく手を広げた。

「……決まっている。……次の市場を、最適化しに行くだけだ」

 魔都・九龍の夜が明ける。

 それは、伝説の軍師が「過去」という重荷を捨て、真に自分の足で歩み始めた、最初の朝だった。

第17話をお読みいただきありがとうございます。

前世の主君との決別。アルヴァを倒すのではなく「救う」ことで、ゼノス自身の魂もまた、過去の処刑場から解放された瞬間でした。

凛と九条という、数字では測れない「絆」が、最強の敵を打ち破る。

これこそが、本章で描きたかった「経営学の向こう側」です。

「アルヴァの最期の微笑みに泣いた……」「三人の絆が熱すぎる」

と思ってくださった方は、ぜひ

・ブックマーク登録

・下の【☆☆☆☆☆】評価

をお願いいたします!

物語はここから、九龍崩壊後の「再生」と、新たな脅威が潜む第18話へと続きます。

次回予告

九龍を支配していた八部衆が消え、街は未曾有の混乱に陥る。

暴動、略奪、そして新たな利権を狙う海外資本の流入。

「破壊の後の再建こそが、軍師の真骨頂だ」

ゼノスは、瓦礫の街で、少女と一人の老人に声をかける。

第18話:『瓦礫の聖域 ―再生という名の最大利益―』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ