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第16話:冥王の審判 ―空から降る黄金の雨―

八部衆の猛攻を退け、ついに九龍の最上層へと到達したゼノス。

そこは、地上二千メートル。雲海の上に突き出した、黄金のドーム。

待っていたのは、世界中の通貨発行権を握り、実質的に人類の価値を定義する男、八部衆の長――【天】のアルヴァ。

その顔を見た瞬間、ゼノスの脳裏に、前世で最も愛し、そして最も残酷に彼を裏切った「ある主君」の記憶がフラッシュバックします。

過去の亡霊と、現代の支配者。二つの因縁が、九龍の空で激突します。

…雲海を抜けた先。

 そこには、下層の汚濁が嘘のような、静謐で神聖な空間が広がっていた。

 黄金のドームの中央、浮遊する玉座に座っていたのは、透き通るような白髪を持つ、穏やかな微笑みを浮かべた青年だった。

「……久しぶりだね、ゼノス。いや、今は『一介のコンサルタント』と呼ぶべきかな」

 その声を聞いた瞬間、ゼノスの体が、かつてないほど激しく震えた。

 怒りではない。それは、魂の奥底に刻まれた、深い悲しみと忠誠の残滓ざんし

「……アルヴァ……。貴様か。この世界でも、また『玉座』に座り、人を数字で弄んでいるのか」

「酷い言い草だ。私はただ、世界を最適化しているだけだよ。君がかつて、私に教えてくれたようにね」

 ゼノスの脳裏に、前世の光景が過る。

 戦火の中で、若きアルヴァ皇子と交わした誓い。『誰もが飢えず、誰もが平等に価値を持てる国を造る』。そのためにゼノスは、自らの手を血と泥で汚し、冷徹な「軍師」として敵を殲滅し続けた。

 だが、その果てに待っていたのは、民を愛するはずだった主君による、ゼノス自身の「処刑命令」だった。

『――ゼノス。君の知略は美しすぎる。……美しすぎて、平和な世界には、君の居場所はないんだ』

 最期の瞬間に主君が見せた、悲しげな微笑み。

 それが今、目の前の男の顔と重なる。

「ゼノスさん……? 震えてる……?」

 凛が、不安そうにゼノスの袖を掴んだ。

 無敵だったはずの背中が、今は、今にも崩れそうなほど脆く見える。

「……ふふ、一ノ瀬さんと言ったかな。彼を解放してあげるといい。彼は『勝利』という呪いに縛られた、孤独な機械なんだよ」

 アルヴァが指先を天に向けると、ドームの天井から、黄金の光の粒子が降り注ぎ始めた。

 それは通貨でも、魔法でもない。【天の徴収(ギフト・税)】。

 九龍の全住民の「幸福な記憶」を担保に発行された、究極の仮想通貨。その光に触れた者は、戦う意志を失い、多幸感の中で全てをアルヴァに差し出したくなる。

「九条……。下がっていろ。これ以上は、お前の論理では防げん」

「……断る。……僕は、君に救われたんだ」

 九条蓮が、鼻血を流しながらも、震える手でゼノスの前に立った。

 「君が孤独な機械だって? 笑わせるな。……僕を導き、あの時、僕の誇りを拾い上げてくれたのは、誰でもない、人間である君だ。……ゼノス、前を見ろ! 過去なんて、僕たちが今ここで書き換えてやる!」

「九条……」

 アルヴァの放つ黄金の雨が、九条の防御壁を次々と貫き、彼の精神を削っていく。

 それでも、九条は一歩も引かない。

「ゼノスさん……私も、一緒です。……あなたがどれだけ寂しい過去を持っていても、今、ここに私たちがいることは、計算違いなんかじゃないですよね!?」

 凛の叫びが、黄金のドームに響き渡る。

 その瞬間、ゼノスの周囲に、冷徹な青い光ではなく、暖かな「夕焼け色」の魔力が溢れ出した。

 それは前世の彼が一度も持てなかった、他者との真の共鳴から生まれる力。

「……そうか。私は、もう『軍師』ではないのだな」

 ゼノスがゆっくりと、凛と九条の肩に手を置いた。

 彼の瞳から、冷たい計算の光が消え、静かな決意が宿る。

「アルヴァ。……貴様は言ったな。私の居場所はないと。……だが、教え直してやる。居場所とは、王から与えられるものではない。……自らの意志で、守りたい者と共に創り上げるものだ!」

「――【因果連結・三位一体トリニティ・ストラテジー】!!」

 ゼノス、凛、九条。三人の魂が一つに重なり、九龍の空に、黄金の雨を押し戻す「白銀の夜明け」が広がっていく。

 それは、数字では測れない、人間の「想い」という名の投資。

「……バカな。……想いという不確定要素が、私の完璧な経済を……拒絶するだと……!?」

 初めて、アルヴァの顔から余裕の微笑みが消えた。

 

 第2章クライマックス。

 過去の呪縛を断ち切るための、本当の戦いが幕を開ける。

第16話をお読みいただきありがとうございます。

ここからは、ゼノスの「心」にフォーカスした物語が展開されます。

圧倒的な能力を持つからこそ、誰にも理解されずに裏切られた過去。それを、現代で出会った凛や九条たちが、不器用ながらも全力で癒していく過程を描きます。

「九条の成長に泣ける!」「ゼノスの過去が切なすぎる……」

と思ってくださった方は、ぜひ

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20話に向けて、さらに涙腺を揺さぶる展開をお届けします。

次回予告

アルヴァが解き放つ、九龍そのものを生贄にした「最終均衡術式」。

崩壊する黄金のドームの中で、ゼノスは自らの命を賭けた「最後の方程式」を導き出す。

「さよなら、アルヴァ。……私は、もう一人ではない」

第17話:『断罪の夜明け ―さよなら、愛した王よ―』

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