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第15話:月と雷の狂騒曲 ―偽りの絆と真実の対価―

ヴォルカンとガイウスの「剛」の連携を、エネルギー投資という発想で粉砕したゼノス。

しかし、崩落した地下の闇から現れたのは、これまでの重量級とは一線を画す、若き天才たちのトリオでした。

神経を焼く雷、精神を狂わせる月光、そして姿なき徴税人。

五感をハックされ、誰が味方かも分からぬ混沌の中で、ゼノスは「自分自身の存在価値」を賭けた、最大規模の心理戦を強いられることになります。

「――あはは! ヴォルカンのおじさんも、ガイウスのおじいちゃんも、ダサすぎ!」

「……効率、最悪。……俺たちの、出番。……でしょ、セレネ?」

 闇の中から躍り出たのは、極彩色のヘッドホンを首にかけ、指先からパチパチと蒼い火花を散らす少年――【雷】のライトニング。

 そして、鏡の破片を散りばめたようなドレスを纏い、不気味なほど美しい笑みを浮かべる少女――【月】のセレネ。

 だが、真の脅威は彼らの背後、影の中に溶け込むように立つ「三人目」だった。

「……お若いの。あまりはしゃぐな。……『山』は静かに、獲物を飲み込むものぞ」

 山高帽を深く被り、銀のステッキを突いた老紳士。

 八部衆が五人目、【山】のグラッド。

 彼は九龍の莫大な富を「隠匿シェルター」し、追跡不能にする税の魔術師。彼がその場にいるだけで、ゼノスたちが持つ「資産(魔力)」は、目に見えぬ「手数料」として刻一刻と削り取られていく。

「ゼノスさん……っ! なに、これ……体が、痺れて……」

 凛が膝をつく。彼女の視界は、セレネが放つ七色の月光によって、現実と幻覚の境界を失い始めていた。

「くっ、計算が……合わない! 僕が今出した命令が、ライトニングの雷で書き換えられて、自分自身を攻撃してる……!」

 九条蓮が、自分のタブレットを恐怖の眼差しで見つめる。

 【月】の幻惑。

 【雷】の電撃。

 【山】の隠匿。

 セレネが意識を混濁させ、ライトニングが神経を焼き、グラッドが反撃の意志コストを奪う。

 完璧な三位一体。ゼノスの「知略」というエンジンに、砂を流し込み、回路をショートさせるための布陣。

「……なるほど。情報の改竄(水)や物理的な熱(火)が通じぬと見て、今度は『認識』そのものを腐らせに来たか」

 ゼノスは、激しい電磁波の中で、黄金の瞳を細めた。

 彼の視界ですら、セレネの幻覚によって、隣に立つ凛がヴォルカンの残像に見え、九条がガイウスの姿へと歪んでいる。

「お兄さん、まだ立ってるんだ? じゃあ、もっと激しいの、いっくよー!」

 セレネが鏡の扇子を広げると、地下空間が無限の鏡合わせの世界へと変貌した。

 

「――【鏡花水月・雷鳴のルナティック・サンダー】!」

 無数の鏡から放たれる、予測不能な反射電撃。

 さらにグラッドがステッキを地面に突くと、ゼノスの足元から「負債デッドウェイト」という名の重力負荷がのしかかる。

「ぐ、あああぁぁ!!」

 九条が悲鳴を上げ、倒れ込む。彼の精神はすでに、セレネが見せる「自分がゼノスを裏切る夢」に侵食されていた。

「九条! 一ノ瀬! 惑わされるな!」

「無駄ですよ、賢者殿。……お主が信じる『絆』も、我らから見ればただの『負債』。……ここで全てを清算し、無に帰すがよい」

 グラッドの冷酷な宣告。

 ゼノスは、あえて抵抗を止めた。

 雷に打たれ、幻覚に飲まれ、重力に押し潰されるまま、彼は心臓の鼓動を魔導演算のテンポへと同調させていく。

「……絆が負債だと? 笑わせるな。……お前たちは、まだ『自己投資』という概念を知らんのか」

 ゼノスが、自らの胸元に指を突き立てた。

 

「――【次元連結・自己破産リスク・ヘッジ・ダイブ】!!」

 次の瞬間、ゼノスの魔力が「ゼロ」になった。

 いや、意図的に、自分の全存在価値を市場から「抹消」したのだ。

「……なに!? 気配が……消えた!?」

 ライトニングが驚愕し、電撃の手を止める。

 認識の対象が消失したことで、セレネの幻覚も、グラッドの徴税術式も、その「標的」を失って空振りした。

「一ノ瀬、九条! 今だ、私の『空白』に、お前たちの意志を注ぎ込め!」

「……えっ!? ……ゼノスさん!?」

 幻覚から一瞬解放された凛が、ゼノスの手を握る。

 九条もまた、その「空白」の意図を察し、残った全演算能力をゼノスのシステムへと直結させた。

 空っぽになったゼノスの器に、凛の「信じる力」と九条の「論理」が、莫大な「増資」として流れ込む。

「……倒産した企業を、最も信頼できる出資者が買い戻す(バイアウト)。……これこそが、逆転の再生計画だ!」

 ゼノスの全身から、これまでの黄金を凌駕する、白銀の輝きが溢れ出した。

 

「――全負債、一括返済。……お前たちの『嘘』ごと、買い取ってやる!」

 ゼノスが解き放った衝撃波が、セレネの鏡を粉砕し、ライトニングの雷を吸収し、グラッドの隠匿結界を内側から爆破した。

「……キャアアアッ!? 私の夢が……壊される!?」

「う、嘘だろ!? 俺の雷が……吸い込まれて……っ!」

 三人の八部衆が、自らの術式のフィードバックを受けて、壁へと叩きつけられた。

 静寂が戻った地下。

 ゼノスは、肩で息をする凛と九条を支えながら、不敵に立ち上がった。

 

「三人合わさっても、まだ『独占禁止法』に触れるほどの脅威ではないな。……次だ。残りの八部衆、まとめてかかってこい」

 だが、その声に応える者は、もういなかった。

 地下空間のモニターが不気味に明滅し、そこには「山」の向こう側に君臨する、八部衆のリーダー、そして九龍の主のシルエットが映し出されていた。

第15話をお読みいただきありがとうございます!

若き「雷・月」のコンビに、老獪な「山」が加わった三位一体の猛攻。

「自己破産」という、これまた経営コンサルならではの奇策で認識をリセットし、仲間からの「増資」で逆転する展開、いかがでしたでしょうか。

八部衆も残り少なくなってきました。

戦いは地下を抜け、ついに九龍の最上層――天を衝く「冥王の領域」へと向かいます。

「三人の連携に絶望したけど、逆転が熱すぎる!」「ゼノスの自己破産、かっこいい!」

と思っていただけましたら、ぜひ

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次回予告

九龍の頂。そこには、世界中の通貨発行権を握る、八部衆の頂点【天】が待っていた。

ゼノスの前に立ちふさがるのは、かつて前世で彼が仕えた「ある人物」の面影を持つ男。

因縁と資本が交錯する、最終決戦の幕が上がる!

第16話:『冥王の審判 ―空から降る黄金の雨―』

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