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098話「占領作戦」





 エリアD2を占領するにあたって索敵班を派遣し具体的な戦力を見てもらっていた。彼らが帰ってきた時、私たちは初めて具体的な作戦会議を始めたのだが。


 「……この兵力は、確かに我々が派遣されるのは必然だったのかもしれないな。」


 「ナリタテンマがこのことを予測してでしょうね。」


 「あぁ王は手腕の良さは私たちが知っての通りだ。だが今は目先の問題だ。」


ワルツ先輩が机を叩きながら敵の戦力を再び確認する。大きなテーブルに広げられた、臨時的な戦略図は見れば見るほど頭を悩ませるものであった。


 まず敵の数はこちらの4倍、魔人族が複数体確認されている。これだけの情報ならばまだ勝ち筋はかなりある状態だったのだが極め付けはブレクトルコクーンがかの戦場に出陣していることだったそれも2体。元々、魔人族とは関係のない自然発生した魔暴だと思われていたブレクトルコクーンは今回の報告によって魔人族が本格的に使役している魔暴だという事実が明かされた。だがこの事実は私たちに絶望しか与えなかった。


ブレクトルコクーンは私たち三人の手には負えない敵だということはこの場にいる私たちがよくわかっている。そもそもあれを倒すことすらできなかったのだ、追い返すにしても戦力が圧倒的に不足している。


 「後手にまわっているか。」


 「というよりも相手の動きに対応した私たちの動きに相手が対応している。と見てもいいだろう。イタチごっこの末に相手の兵力は私たちを大きく上回っている。完全に情報戦に負けたということだ。」


冷静に分析するワルツ先輩の声色には苦しさが含まれている。責任感の強い先輩からすればこの地獄のような戦場に味方、ないしは戦いを挑む気持ちがしれないのだ。


 「……これだけの戦力が前のであれば、もっと増援が必要だろうワルツよ。」


 「ダメだ。相手が後手でも勝てる要素がある以上、最前線に味方を送るというのは自殺行為だ。」


 「たしかになぁ。」


 「となると私たちだけで攻略することになるでしょう。」


 「しかしプラノード、それこそ無理な話だ。」


 「……単体の兵力ならこちらの方が優っている。」


ワルツ先輩が私の意見に賛成するように口にする。しかしそれを聞いたフォース先輩は厳しい顔を向ける。


 「これは戦争だ。たった一人で何ができる?」


 「たった一人で全てを殲滅すればそれで終わりだ。私なら、できるはずだ。」


 「無謀と勇気は違う。」


 「なら教えて見せろ、私一人で戦う以外の最善策を!」


 「………っ」


フォース先輩の言葉に痺れを切らしたワルツ先輩が声を荒げる。彼女からしたら今のこと瞬間、味方は戦場で戦っている、そんな中自分たちがこうものうのうと作戦会議に時間を費やしているのがたまらないのだろう。その気持ちはわかる、だがそれは自らを考えなしとした時の思考であり。一人の知り合いとして、誰かに全てを押し付けるなんてことはしたくない。


 「………先輩方、落ち着きましょう。」


 「……。」


 「。」


 「たしかにお二人のおっしゃることは確かです。ですがどちらの案も最適だとは思えません。」


 「なに?」


真っ先に反応したのはワルツ先輩だった。鋭い眼光がこちらに向けられる、けれどもここで怯んでしまったはもっと最悪な展開になる。そう確信していた私は押し黙ったりしない。


 「ここは三人、いえ部隊全員で取り掛かるべきです。」


 「プラノード、それは!」


 「私も戦力が見えない者ではありません。今回の占領戦では確実に犠牲が出ます。それは致し方のないことです、それならばと先輩たちがおっしゃりたいことも理解できます。ですが兵士達は自らの命を削りここにきているのです。」


 「それが、」


 「私たちと同じ彼らは戦士です。ただそこにある格差が強いか強くないかの違い、ですが志は同じく全員覚悟を持ってきています。自分が死ぬかもしれない自分が次は生き残れないかもしれない、それを承知でここにきていることを先輩方には理解してもらいたいのです。」


 「それがプラノード、命を捨てるのを許容するのか?!」


 「いいえ、私たちがするべきことは戦いをした上で彼らを一人でも多く生かすことです。決して決意と命を無駄にすることではありません。どちらも無駄にしてはいけず、そして国へ尽くすという大義を持つ彼らの意志を踏み躙る、それこそ命からがらの生存であっても恥なのです。」


 「………恥、だと。」


 「戦士としての覚悟か、そういったワシはものわからなくはないな。」


 「はい。ですから私たちは戦う作戦が必要なのです。誰か一人を贄にすることもせず、誰一人かけてはならない作戦を。」


 「…………。」


 「ワルツ先輩、ご理解いただけないでしょうか?」


ワルツ先輩の言っていることはもっともである。そもそも戦争という舞台において彼女の考え方は衛生兵に近い、命を無駄にしなくてはならないという使命を持った素晴らしい人、けれどもそれが自分たちを脅かし一つでも命を散らすことにつながるのなら、それを排斥しなくてはいけない。きっと力を持ち、癒す力も持ってしまった彼女にとって私の言葉は届かないかもしれない。けれども、後悔はない。

生きている意味とは、覚悟とは、決意とは、それらを無駄にせずたとえ自分が残せるものが何一つなくても突き通すこと、それが人生だと私は学んだのだから。


 「………私は戦争のプロでも、戦略家でも、戦士でもない。プラノード、作戦指揮は君に任せる。」


 「……ありがとうございます。決して命を無駄にしない勝ち方をします。」


 「………席を外す。」


こちらに顔も見せずワルツ先輩は再び負傷兵が集まるテントへと赴いていった。張り詰めた空気が一気に溶けたことを感じながら少しため息をするとフォース先輩が肩を持ってくれた。


 「ワルツのことは心配しなくても大丈夫だ。」


 「………ですがワルツ先輩の言っていることは正しいことです。端的ですけど、ワルツ先輩はみんなのことを思って行動していますから。」


 「だがそれでワシたちが悲しむことを考えていない。」


 「はい。ワルツ先輩は私にとって大切な先輩で仲間です。どんな形であれ無謀な形で先輩を失いたくはありません。」


 「……ワシもだ。やはり、君はワシよりもワルツをわかっているな。長生きをしすぎると保守的な考え方にとらわれるというが、バカにできない。」


 「そんな、私はお二人のように即決もできません。」


 「即決した戦術や戦略は前提にとらわれ過ぎている。プラノード、君が考えるものはそれとは違ったものを感じるのだ。」


 「……光栄です。でも少し手伝ってもらってもよろしいですか?」


 「ワシが手伝えることがあれば、このとおり。」


 フォース先輩と協力し部隊員達が全員支度を整えるまでになんとか作戦を練り上げることができた。成功率は極めて低いという点を除けば大勢の命を犠牲にしない、そうワルツ先輩だって納得するようなものであり、私が選んだ戦場の方式である。




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