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092話「開戦の炎」





 開戦の気配が見えないまま数ヶ月が経過しようとしていた。だが時間が経てば経つほど周りの雰囲気というか周りの心意気はどんどん厳しくなってきているのだと城の中で生活する私は薄々感じていた。普通はこういうものはだんだんと気が緩んで油断が生まれてしまうものだがナリタテンマ、そしてクリスの王族としての表面化した姿勢が余計に貴族たち、そして私たちのような客人にまで程よいプレッシャーを与えていたのか、時が訪れるその日まで誰も文句は言わないし誰も驚くことはなかった。


 私と父はナリタテンマに呼び出しを受けていた。魔術秘宝を持つものが集められる定例会議である、戦力の把握と各々の状態を確認するだけの簡単なものでいわゆる健康診断のようなものだと父は私に気持ちを落ち着かせていた。

けれども顔ぶれやないしは私は王の前のなのだからふざけた顔もできずにこの会議には毎回の如く軍属のような気持ちで参加していた。

実際心意気はいささかあれどこの対応は正解である。


 「獣人族からの援軍も到着、軍隊はより強固なものとなった。交代制で前線からの様子をほぼリアルタイムの勢いで観測しているが向こうに目立った動きはなし。」


前回の定例会議とほぼほぼ全く同じことを話すナリタテンマ、誰もがこの話を聞くたびに実践はまだなのかと思う一方胸を撫で下ろす気持ちのものもいる複雑な状況。後者である私は嵐の気配にどこか胸騒ぎを抱いていた。


そんな時だった、今にも話すことがなく解散の意を伝えようとするナリタテンマの元に伝令が走った。私たちがいる会議室の扉を開け、息を切らしながら入ってくる一般兵、その様は無礼な他ないがナリタテンマは何事かと叫ぶ。


 「ご報告いたします!」


兵士は自分の場違いさに気付きながらもすぐに体をまっすぐにし、報告を行なった。

その報告は最前線での調査隊が魔人族の大規模な動きをキャッチしたとのことだった、どうやら魔暴を引き連れながらゆっくりと門がある方向に進行しているとのこと。


 「きたか。」


父の確信的な言葉が小さいながらも私の耳に届く。私はその言葉で静かに汗を流しながら唾を飲んだ。


私と気持ちを同じくする者は他にもいたのか誰も何も言わずただただきたという事実に武者奮いをする者たちが多かったと思う。顔にはわずかにしか出さないもののここにいる全員が魔人族との戦闘経験があるものだから、あの地獄がさらに戦争に特化したと考えれば心は決して楽ではない。


 「わかった。前線の部隊には悪いが、今は軍隊をもうしばらくまとめ上げるためにもうしばらく耐えてもらう必要がある。伝えてくれるか?」


 「ハ!!伝えさせていただきます!」


兵士は逃げるようにその場から走っていき、開けられたドアをナリタテンマは少し早歩きで出ていった。その場にいる者たちはそれが解散の意だと気づき自分たちも次呼ばれてもおかしくないような心構えと、最後の訓練の時間を言い渡されたのだと理解する。


父と共にドアに1番近かった私たちは少し早歩きをしながら廊下に出る。私たちが先行で知る情報ではあるものの共有する相手にはしておかなくてはならない、エルザードおばあちゃん、エルフル、そして母にだ。


 「随分と遅い登場だったな。」


 「それだけ相手が力を蓄えたとみていいのでしょう。」


 「そうだな。だが相手はおそらく完全勝利を狙ってくるはずさ。」


 「完全勝利……?」


 「文字通り、こちらの意思すら完全に破壊する完膚なきまでの勝利だよ。」


父の言葉には確信があったのか、私の疑問を弾き飛ばす勢いであった。けれども私はその完全勝利という勝ち方には疑問があった、それは実質的に完全勝利などというやり方は不可能だからだ。どんなに打ちのめされたところで私たち意思ある生き物の中には多かれ少なかれ反骨の心が必ず存在する。

それが強大であればあるほど比例して大きくなるのであれば心をへし折ることなど歴史を見れば不可能なのだ。そうそれこそ殲滅などという非道なやり方でなければ。


 「……奴らは我々を殲滅するはずだ。」


 「──生かす、というのがあり得ないのですか?」


 「理由がない。自分たちよりも劣っていて自分たちよりも厄介で、自分たちよりも面倒くさい生物を生かす理由がな。異文化侵略ではなくこれは自分達以外の生命を許さない、という声だ。」


 「………」


にわかには信じられない。だがそれは私がみた歴史がそうであっただけなのだ。父の知っている歴史はおそらく私よりも深く、そして知識から弾き出される回答はより精度が高い、一人の戦人として、一人の大人としてだ。


 「魔族と人間の戦いは五分五分のような歴史に成り変わっていると聞くけど、参加した俺たちからすればあれは文字通り両者どちらかが死ななければ終わらない戦いだったんだよ。」


 「……魔人族もそうだと?」


 「魔がついている生き物はな。基本的に人が神によって作られるのならば、魔は人のなり損ない、いわゆる人が抱えた罪から生まれた。それこそ永劫にも思える世界の中で生まれた、嘆きの憎悪なんだよ。」


 「それは。」


 「……本来こういうのを潰すのは神の仕事なんだ。だが──まだ今回は人の手でなんとかできる。」


 「……勝てるということですか?」


 「いいや、勝つために戦えるということだ。」


人が可能性を掴むことができる戦い。私は父の言葉からそのようなものを感じ取った。




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