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087話「研究所」





 一度部屋に戻り魔術秘宝を手に持った私はクリスの案内に従い、城の奥へと進んでいく。クリスのニュアンスからさほど苦労せずにいけると思っていたが。


 「では、こちらの書類にサインを。」


 「書類。」


 「書かなければここから先にはいけませんから気をつけてくださいね。」


クリスの差も当たり前のような態度とは反対に私の目の前にある書類には厳重な言葉が書きづらなれている。全てにチェックを入れると考えると先が思いやられるほどである。


 魔術秘宝を作っている場所の前まできた私はクリスと共に書類にサインを続けている。その理由はこの先に多分かなり厄介な制約があるからなのだろうと思われる。チェック項目の中には生命に関わるものだとか、遺言書の有無など冗談ではないことが数多く載っていた。クリスは全てササッと書いていくが慣れない私は意外にも時間を要した。


 「ボディチェックさせていただきます。」


 「はぁ。」


 「大丈夫ですラナさん。もう魔術による検査も通っているので体が特別な状態じゃない限りは通れますよ。」


 「特別な状態?風邪や病気とか、あとは酒を飲んでいるとか。そんなところですわ。」


チェックを終えたクリスは両手を腰に簡単に言ってくれる。私の心を和らげようとしていることは理解できるが、こっちはこっちであの大量の書類にサインとボディチェックという現実に緊張しかできないのだが。


 そんなボディチェックも乗り越え、ため息混じりに私はクリスの隣を歩き先へと進んでいく。


 「王城にこんな場所があるなんて。本当に。」


 「すみませんね、ですが魔術秘宝は一つだけでもコストも時間もかかりますし何より刻まれる術式は全て人の手には余るものですから。あのような厳重なチェックがないといけないようにしているのです。」


 「……私、本当にこんなところに来ていいの?」


 「もちろん。もしかして嫌になりました?」


 「いや、魔術秘宝がどういうものかを知っておくのは必要かなとは思っているよ。けど、私そこまで得意じゃないし詳しくもないから。」


 「私がいます!説明ならいくらでもしますから。」


 「ありがとう。」


 「こちらこそ、ラナさんには付き合わせてしまうようにしてしまい申し訳なく。ですが魔術秘宝はその制作工程なども口外禁止なので、この先の研究所でしか大声で話せないのですよ。もちろん小声でもダメですけどね。」


クリスはウィンクしながらお茶目に言ってくる。私はそれを見て少しだけ気を軽くしつつもその裏にある厳格なルールにさらに身が閉まっていくような思いが複雑さを生んでいた。


しばらく進んでいると、一瞬にして通路が真っ暗になった。変化に驚きつつも私はそれが魔術的作用を含んだものだと瞬時に理解していた。


 「暗場の魔術?」


 「はい。研究所では光源に至るまで管理が施されます。そのため直射日光、偏射日光、あらゆる外因を取り除くために最大限の処置をしております。」


 「日光が魔術と関係あるんだっけ?」


 「可能性の話です。真っ黒なカーテンを使って一度大爆発が起きたことがありますから。ですので、一応何が要因になるかわからないという小心心からこのように。」


 「なるほどね……それにしても珍しいね。クリス以外で何かが爆発するの。」


 「ラナさん……私ももう子供ではありません。私も研究者肌を持っていますから、たまに、ごくたまにやらかすくらいで抑えています。」


私は今平然のように語ったが、クリスは昔からよくいろんなものを破壊する。動機は気に入らない、失敗した、成功した、ミスった、寝ていた、起きていた、転んだ、調子に乗った。などいろんな形容がある。逆に何が要因で爆発していないかを探す方が難しいとすら思うほどである。だから城が爆発するのも、学園が爆発するのも、訓練場が爆発するのも、私にとっては慣れすぎてどこも同じに見えるのだ。

もっともこの話を他の人にしてみれば狂っていると言われてしまうわけだけど。


 「……クリスって魔術の研究、参加しない方がいいんじゃない?」


 「んまぁ!それは良くありません、私の魔術の研究は趣味です、私の唯一の趣味なんです!それに失敗は成功の母とも言いますし、実際に爆発の代わりに成功していることは多いんですよ!」


 「うん。」


 「ですから、そんなことおっしゃらないですください!さもないと私。ラナさんを趣味にしてしまいますよ?」


 「それは困るな。ごめんね。」


 「はい!」


私が趣味とはなんなのだろう。という疑問を置いておいて廊下を進んでいると完全に真っ暗になった。夜目が聞いている私はほぼ明かりがなくても問題なく進んでいる、クリスも同じだろう。


 「この先ですわ。扉があって163パターンの魔術式を利用した施錠が施されています。一つ間違えば強力な魔術による四方八方からの拘束を受けて誰かに解除してもらう以外ではタイムリミットまで3ヶ月その場で過ごすことになります。」


 「遠回しに死ねって言っているようなものだよね。」


 「まさか、ただ……我慢していただくだけですわよ。ですが、入り浸る人が多いこの研究所ではもしかしたら5日間はその場に居させられることもあるかもしれません。」


怖いことを言いながらクリスは手探りに目の前の扉に接触した。その瞬間、見るからに乱雑に絡み合った魔術式が扉から現れこの難問を解けと諭していることがよくわかった。

クリスは慣れた手つきでそれらを指先一つずつで操る芸当をやってのけながらほぼ毎秒一つのロックを解くような勢いで解錠を行っていた。


 「クリスはすごいね。指先の魔術操作なんて、想像できるものじゃないでしょ。」


 「いえいえ、そこまで難しくはないですよ。」


謙遜する彼女が今行っていることを簡単にわかりやすく言えば左手と右手で別々のことをやりながら足でも別々のことをやり、そんな中で計算問題を頭の中でやっている。そんなレベルで難しいことをやっているのだ、通常魔術は片手をフルに使って使うものだが、クリスはいま指先一つで一つでそれらをやっていることになる。その動きは側から見れば昆虫のような精密性でどこか気色悪さも感じるだろうが、それは本人もよくわかっているだろう。


そうしばらく観察しているうちにカチッと扉が開く音がし浮かび上がっていた魔術式はガラガラと回り始めクリスが解いた労力を無に返そうと再びランダムになり始めた。


 「開きましたわ。」


 「これって普通は丸一日かかるんじゃない?オートキーとかは?」


 「そんなのがあったらここまでセキュリティを厳重にする意味はありません。それに、魔術秘宝は叡智の結晶、これが解けぬものは入ってはならない。その意味合いもありましてよ。さて、早くいきませんと再度ロックがかけられます。」


クリスの手に引っ張られるような形で私は入札。それと同時に先ほど解錠した扉がガチッと閉まった音が聞こえてきた。猶予時間はおおよそ15秒といったところだった。


 「今のでは入れなかったお方は、もう一度やっていただくことになりますわ。」


 「………考えたくないね。」


クリスの言葉に苦笑いしながらズカズカ進む彼女の後をついていく。真っ暗だった先ほどの廊下とは打って変わって研究所ないの雰囲気はとても明るかった、アットホームというわけではない。照明的にだ。

そこにいる人たちは全員白衣を身につけては談笑しつつも、金属を持ち上げたり時には魔術を使って軽快に作業をする人たちなど、そんな人ばかりだった。


 「数は少ないんだね。」


 「あれを解けるのは現時点ですと45人程度ですから。」


 「そういうことね。」


私は納得した。


 「それと、みなさん白衣をつけていますが特に意味はありません。」


 「え、ないの?」


 「はい。ただそういう気分だというくらいです、ラナさんも研究者というのは白衣がつきものという印象がありますよね?」


 「それは、もちろん。」


あえて目立つ白にして自分が潔白であることを象徴する、白衣を身につける理由はおそらくそんなところだ。


 「ですがこの場にいる人たちは皆自身に特殊な魔術防御を施ししています。そうですね、すみません。」


 「………。」


クリスが見るからに大声で叫んでみても、リラックスして会話を楽しんでいる男性職員二人は見向きもせずにただただ会話を続けている。こちらが見えていないかのようなそんな気すら生まれてしまうほどに。


 「あれ?」


 「っとこのように今あそこにいる人は自身に防聴の魔術を施しています。接触していなければ会話することすらできません。」


 「なんで、ってまさか。」


 「はい。ポテンシャルを下げる可能性がある。というのもそうですが声には振動というものがありまして、それを打ち消すためですね。例えばです今にも爆発しそうな薬品を片手で操っている時に大声を出され失敗する。なんてことをされてしまってはおしまいでしょう?魔術秘宝はそれくらいの細密性も時には求められることがありますから。」


 「そ、そんなに。」


 「今のは一端です。他にもいろいろありますが割愛して先へ進みましょうか。」


 「うん……って、意外とここ広いんだ。」


 「それは感じ方の問題ですわ。」


 「感じ方?」


 「………試しに魔術探知を使ってみてください。」


 「いいの?」


 「はい。3秒後にはレジストされる防御術式がありますが半径5mくらいならしっかりわかりますから。」


 「わかった。」


私は魔術探知を使って目の前の風景の配置を脳内で座標感覚に切り替える。魔術探知は特殊な波によって自分を中心に周囲にある物体、生物などを瞬時に探知しそれらを脳内に直接叩き込む術式である。誰でも使えるものではあるが人によってはこの頭に直接入れられる感覚がなれず酔ってしまうこともあるらしい。実際に初めてやった時は脳が情報を処理しきれなくて少しフリーズしたことをよく覚えている。


そしてレジストされて跳ね返ってくるまで時間はかからず、私の頭にはすぐにものの位置を含めた座標と情報が収納されていった。


 「これは。」


 「お分かりですか?」


 「小さくなっているの?」


 「はい。全体的に縮小するように魔術をかけております。最近見つかった極小の世界、それの先駆けを魔術で応用したものとなっています。」


頭の中に叩き込まれた情報では外と遮断されてはいるが目の前に映る距離感とは別に数学的距離指標は以外にも小さいことがわかった。すなわち、私たち人を含む建物全体が通常の数倍ミニチュアになっているのだ。小人という単語があることは知っているが、まさか自分が人為的にそうさせられているとは、確かに気づかないだろうしとても意外性があるある。


 「一見気づきにくいですが。頭の中で数値まで作ろうとしている方はすぐ気づきますわ、まぁそこまで大雑把な魔術探知を使っているお方はそもそも王城勤務などしておりませんが。」


 「どうして、こんな感じに?」


 「それは先に行ってのお楽しみ。もうすぐです魔術秘宝の制作場所に入ります。そこでご説明いたしますわ。」




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