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085話「激おこ」





 魔術秘宝の配布が終わると私たちは互いに挨拶を交わすことなく元の部屋へと戻っていった。時間をかけないことによって貴族やその従属の兵士に見つからないようにするためである、クリスとナリタテンマとも何も言わずその場で別れた。けれども、クリスがこのあと訪ねてくるような気配を出していたのでなんとく私はそれを察していた。


 来た時のように窓から出て、魔術を使って空中浮遊、帰りは父の手を取って戻っていた。


 「………」


 「………あの、お父様。何か?」


父が私の手を少し強く握っているなと思いながら私は気のせいかもしれない声を上げた。父は私の言葉にハッとしながらどこか物悲しそうにこういった。


 「や、随分と大きい手になったなと。」


 「それは、私もあれから9年経ちましたから。」


 「そうか、そうだな。すまない、小さかったラナがこんなにも大きくなったことにまだ実感が持てないんだ。」


 「………私だって、お父様が隣にいる。実感が持てません、」


 「それは困るな。」


たわいもない会話だが、私たちには確かに9年という離れた時間が存在している。互いに実感が持てないのは単にボケているという言葉の裏ではなく、純粋に悲しくも確かに存在する感情であるのだ。


 「……手、しっかり手入れしているか?」


 「そういうのはあまり。」


 「手がずいぶん荒れている。母さんだってこんなにマメだらけなことなかったんだぞ。」


 「。」


その父の叱責のようで悲しい言い方に私はなんと返したら返したらいいのかわからなかった。父は思えば母よりも私という一人の子供に対して敏感なのかもしれない。


 「──これからはできるだけ気をつけなさい。お母さんは、手が荒れていたことあとで後悔していたからな。」


 「それは、どういう?」


 「ん。こんな手では私に嫌われると言っててな。全く。」


 「それは、かなり先ですよ。」


 「どうだろうな。お母さんが結婚したのはラナよりも一個下の時だ、考えたくはないがラナにも一人くらいそういう大切な存在ができてもおかしくない。」


 「えっと、それは嬉しいことなのですよね?」


父のどこか複雑な意図に私はわざわざ聞くようにした。


 「ラナからすればな。だが一人の父親という立場としては複雑なんだ、もうまだまだ先なんてボヤけなくもなったからな。」


 「………。」


少し考えてみる、自分にとって大切な人。話の流れから察するに多分恋愛的感情を持つ人物なのだろう、私にそんな人物がいるのかと少し頭の中で考えてみる、だが真っ先に浮かんでくるのは家族とクリスくらいだ。多分これは私が極端に恋愛に疎いせいだと思う。


 (母はどうやって恋心を理解したのだろう。)


こういうのは人に聞くものではないということは理解しているが、それはそれとして気になる。母は父にゾッコンであるといえるし、父も父で母のことは大切に思っている。

両親の恋の話など子供は聞きたくないという風習があるが、私からしたら逆に疎すぎて聞きたいほどである。それに別に互いに好きを表現するのはいけないことでも恥ずかしいことでもないはずだと思う。


 「お母様を置いてきてしまいましたけど、大丈夫ですかね?」


 「大丈夫さ。元冒険者で寝起きが一瞬でも、流石に状況把握くらいは。」


そう言って部屋の窓に朝ついた父は簡単に扉を開けてカーテンを横へと広げた時だった。母が腕を組みながら仁王立ち、さらに顔は怒りの満面の笑みであった。それを見た私たちは瞬時に凍りつき、父はあろうことカーテンを閉めた。


 「逃さないよ二人とも!!」


しかしカーテンを引っ張り上げた母が手を伸ばし私と父の腕を掴み、驚くべき力で部屋の中へと引き込んだ。無理な体勢で転がり込んだせいで床に顎を打ち付けるなどかなりの痛手を負ったが問題はそこではなかった。


 「コラー!!!なんで私に何も言わなかったのーーッ!!!」


初めて見た母の怒り顔だった。生まれてこの方、母には怒られたことがない私だが今回はその逆鱗に触れたらしく、それから数分間父揃って母に説教されることになった。


 「お、お母様って、怒るんですね。」


 「あぁ、私も殺意を向けられたことはあれど、怒ったのは。」


 「ぇ、」


 「二人とも聞いてる!?」


 「き、聞いてます!!」


母の声に隠れて父と会話するも、それすらも叱られてしまう。母が怒るとこのようなふうになるなんてのは本当に知らなかったからか、心の底から骨身に沁みた説教を私はようやく受けることとなった。


 「全く。経緯はわかったけど、せめて私に次は一言いってね。二人が急にいなくなるなんて………もうやめてね!」


 「は、はい。」


私と父はすっかり萎縮し、ことの事情を話した。母をおこなさいようにとの気遣いだったが、それは裏目に出てしまったようだ。考えてみれば私たちがいなくなること自体母にとって最大の裏切りになるのだから、もう少し考えればよかったと後悔したのであった。




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